波多野睦美&つのだたかし『アルフォンシーナと海』

アルフォンシーナと海

アルフォンシーナと海

メゾ・ソプラノ歌手波多野睦美リュート奏者つのだたかしのコンビは、主につのだが主宰するレーベルのパルドンからルネサンスバロック期を中心とする歌曲集を何枚も発表しており、そのいずれもが高い評価を得ています。私はイギリスのフォーク・ソングを取り上げた『サリー・ガーデン』を特に愛聴してきました。
さて、このアルバムはワーナーから発売されたもので、全て20世紀の曲で占められた異色作。選曲もユニークでラミレス、ヒナステラ、ヴィラ=ロボスといった南米の作曲家の作品にはじまり、ラヴェルプーランクのフランス勢を経てイギリスのヴォーン・ウィリアムズが3曲、そして最後に武満作品2曲で締めくくられています。しかし20世紀曲といっても彼ら2人の手にかかると、これまで彼らが奏でていた古楽の世界を思わせる、清楚で静謐な美しさをもった音楽となって聴く者の心をうちます。波多野の歌もつのだのリュートもことさらにエキゾティズムを強調したりはしないのですが、じっくりと耳を傾けていると、ほのかにそれぞれの曲が生まれた地域が湛える香りのようなものが伝わってくる思いになるのです。そして最後に優しく歌われる武満曲には聴く度に不思議な懐かしさを感じさせずにはいられません。