柴田ヨクサル「ハチワンダイバー」第3巻

ハチワンダイバー 3 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 3 (ヤングジャンプコミックス)

ハイテンションでとばしまくる将棋マンガの第3巻。本業は漫画家の真剣師・文字山との“人生を賭けた”勝負が中心です。強烈な特徴を持つ人物が次々と登場するのが柴田ヨクサル作品ですが、文字山もその例にもれず、ものすごい個性の持ち主。自分が連載している、将棋の駒をキャラクターにしたマンガ「なるぞうくん」のキャラ達と脳内で会話(だけならいいけど、実際に口に出している)しながら指し進めるその姿は異彩を放っています。1秒間の妄想シーンに7頁も使う大胆な構成が読者をぐいぐいと引っ張っていきますが、将棋の部分だけとってみてもとてもスリリングな攻防が繰り広げられているのが、この作品の大きな魅力です。

私よりankoroさん(id:ankoro)の方が適任だと思いますが(もしお読みになっていればですが・・・)、あえて将棋の部分について書いてみましょう。主人公・菅田の四間飛車高美濃囲いVS文字山の居飛車穴熊囲いの激突です。菅田の読みを超える攻めを展開する文字山。飛車を菅田の玉に直撃する勝負手に頭が真っ白になった菅田は、読みを文字山に託す形で玉をかわし、九死に一生を得ます。両者持ち時間もわずかになって怒涛の攻め合い。そしてついに菅田の勝負手、“金の楔”の詰めろ(次に何かしないと王が詰んでしまう形)が炸裂!まだあきらめない文字山は“攻防の角”で逆に詰めろをかけてきますが、菅田が最後に放った“歩の手裏剣”こと焦点の歩が絶妙の切り替えしで決着です。要するに「明日のジョー」で矢吹がトリプルクロスカウンターで勝ったようなものですよ(笑)。この終盤戦での描写は、両者の切迫感や心理の動きが良く表現されていて迫力満点でした。

ところが主人公はこんなにスリリングな勝負を制したのに、次の相手の斬野には心理的に動揺したまま手を進めてしまい、このマンガの将棋監修者であり、作中では菅田の師匠でもある鈴木大介八段が生み出した戦法、“新石田流”の直撃をくらって木っ端微塵に敗れ去ってしまいます。あ〜あ。まあ私は連載を追っているのでその後の展開も知っていますが、それでも第4巻が楽しみです。ちなみに第3巻だけだと斬野青年はフツーの人に見えるのですが、実は・・・それもたぶん第4巻で明らかになるでしょう。