コリーン『静かな波〜レゾンド・シランシウーズ』

les ondes silencieuses [静かな波~レゾンド・シランシウーズ]

les ondes silencieuses [静かな波~レゾンド・シランシウーズ]

“まったり特集”ようやく新譜の登場です。サンプリングやラップトップを駆使してきたエレクトロニカ系のアーティストが作品を重ねるにつれ生楽器の比重を高めることは決して珍しくありませんが、その中でも今回取り上げたコリーンのアプローチのユニークさはきわだっています。前作『colleen et les boîtes à musique』はオルゴールを主要な素材としてつくりあげた小曲集でしたが、このアルバムで重要な位置を占めているのは古楽器ヴィオラ・ダ・ガンバなのです。
演奏の際楽器をふくらはぎで支えることから、イタリア語で「脚のヴィオラ」という意味をもつヴィオラ・ダ・ガンババロック音楽の時代には大変人気がありました。チェロに比べるとややくすんだ音色をもつのが特徴です。コリーンは15歳のときに見た映画でこの楽器の存在を知り、以来ずっとその魅力に魅了されていたとか。そして昨年、念願かなって楽器を入手し制作を開始したのがこのアルバムです。このアルバムではもはや彼女はサンプリングやコンピュータを一切使用していません。ヴィオラ・ダ・ガンバの他に使用されているのは、これも古楽器のひとつである小型チェンバロのスピネット、クラシック・ギタークラリネット、クリスタル・グラスのみ。それも全ての楽器が同時に使用されている曲は無く、ソロもしくはデュオの形態で全ての曲が演奏されています。ヴィオラ・ダ・ガンバのソロで奏でられる曲も朗々としたメロディーや、技巧的なパッセージによる音の運動がそこから聴けるわけではありません。ここでのコリーンは楽器の重なる響きよりも、ひとつひとつの楽器の音色に深く耳を傾けることから音楽を紡ぎだしているのです。結果として彼女の作品の中でも極めてパーソナルな響きをもつアルバムが誕生しました。音楽の構造は異なるものの、良質のシンガーソングライターにも通じる内省的でメランコリックな魅力が確かにここには感じられるのです。
国内盤には昨年の来日公演時の演奏より3曲がボーナス・トラックとして提供されています。これらもアルバムの魅力を損なわないシンプルな美しさを持ったものとなっています。アートワークの美しさも忘れてはいけないポイントですね。