ヒナステラ『ハープ協奏曲・エスタンシア・ピアノ協奏曲』

Harp Concerto / Estancia Suite

Harp Concerto / Estancia Suite

ピアソラの師匠でもあった、アルゼンチンを代表する作曲家がヒナステラです。とはいえ、その音楽を耳にする機会はあまりなかったのですが、オーケストラによる代表作を集めたこのアルバムは、躍動的なリズムを持つ力強い音楽が並び、プロコフィエフハチャトゥリアン辺りが好きな人なら文句なしに楽しめるものとなっています。

ヒナステラの音楽は彼自身によって3つの時期に分類されています。まず最初は“客観的国民楽派”時代。このアルバムでは「エスタンシア」がこの時代の曲です。同名のバレエ音楽から4曲を組曲として構成したもので、最も民族音楽の色彩が濃い仕上がり。華やかで楽しい曲です。伊福部昭を思わせるところがありますね。
続いて“主観的国民楽派”時代。民族音楽の直接的な引用から現代音楽的表現へ移行しつつある時期です。この時期の代表作が「ハープ協奏曲」。ハープと聴いて連想しがちな優雅さはほとんどなく、緊張感漲る聴き応えのある曲となっています。
そして最後が“新表現主義”時代。12音音楽の技法なども駆使した作品が出てくるのがこの時期ですが、このアルバムに収録された「ピアノ協奏曲」を聴くかぎり、決して難解な音楽ではありません。パーカッシヴで激しいリズムを多用することはどの時期にも通底している特徴で、この「ピアノ協奏曲」でもぐいぐい押しまくってきてカッコイイんですよ。第4楽章をエマーソン・レイク&パーマーが『恐怖の頭脳改革』でカヴァーしていることからも、彼の音楽がロックなどにも通じる魅力をあることが分かると思います(このELPのカヴァーはヒナステラ自身も絶賛したそうです)。演奏もエネルギー全開のダイナミックな力演で燃えますよ。ヒナステラ入門盤としてもふさわしい1枚だと思います。このアルバムの次は津田理子によるピアノ曲集『ヒナステラ:P曲全集』をぜひ。