サンダークラップ・ニューマン『ハリウッド・ドリーム』

ハリウッド・ドリーム(紙ジャケット仕様)

ハリウッド・ドリーム(紙ジャケット仕様)

今でもCMに使われることがある名曲「サムシング・イン・ジ・エアー」を1969年に大ヒットさせたのがサンダークラップ・ニューマン。私は鈴木さえ子が大名盤『Studio Romantic』でカヴァーしたので知ったクチです。この鈴木さえ子ヴァージョンは途中でビートルズ「ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー」のフレーズが挿入されたり、元XTCのデイヴ・グレゴリーが素晴らしいストリングス・アレンジを手がけたり(XTC『スカイラーキング』収録曲「1000アンブレラズ」でのストリングスを聴いて依頼したそうです)と大変凝った仕上がりの名カヴァー。ただ、肝心のオリジナルを聴く機会にはなかなか恵まれなかったのですが、このたびの紙ジャケ化でようやく聴くことができました。

サンダークラップ・ニューマンはスピィーディー・キーン、後にウイングスに加入したジミー・マッカロク、アンディ・ニューマンの3人によるグループ。キーンは元々ピート・タウンゼントと交流があり、ザ・フーの『フ−・セルアウト』にキーンの曲が取りあげられる程の仲だったのですが、そのタウンゼントの働きかけでメンバーが集まりグループが結成され、デビュー・シングル「サムシング・イン・ジ・エアー」がいきなり大ヒットしました。ところが今回取り上げたデビュー・アルバム(にしてラスト・アルバム)はシングル・ヒットから1年以上経ってようやく発表されたもので、この頃には既にデビュー当時の勢いは失われていたようです。結局アルバム発表後まもなくしてグループは解散してしまいました。

こうして経歴をまとめてみると、典型的な「ワン・ヒット・ワンダー」のグループだったといえるでしょう。えてしてそうしたグループのアルバムはヒットした曲だけが良くて後はちょっと・・・ということになりがちですが、このアルバムは他の曲もなかなか充実していて、XTCにも通じるところがあるブリティッシュ・ポップの楽しさが詰まった好盤となっています。キーンのポップなソングライティングとハイ・トーンのヴォーカルにジミーのギターがロック的なエッジを加え、一方ニューマンのホンキー・トンク調のピアノが牧歌的な色彩を与えています。オーボエなどの管楽器の使い方もうまい。アルバムを通して聴いてみると「サムシング・イン・ジ・エアー」がやや浮いた感じになっており、アルバムのトップではなく最後に置かれたのもしょうがないと思わせます。今回のレヴューは赤岩和美氏の解説にかなり依拠して書いているのですが、その解説によるとシングル・ヒット後のツアーでなんと彼らはファンの大半が期待していただろうヒット曲を演奏しなかったそうです。メンバーにも「これは自分達本来のサウンドではない」という思いがあったのでしょうか。そのことが彼らの人気に水を差す要因になってしまったのが残念ですね。私好みのポップ・センスを持つグループなのでもう数枚アルバムを残して欲しかった。