1/7神田晋一郎(pf・作曲)/小阪亜矢子(歌)コンサートシリーズ《夜の音楽》 第一回 クロード・ドビュシー@公園通りクラシックス

今年の演奏会初めです。神田晋一郎は主に即興演奏を追及する「音樂美學」を主宰するピアニスト。とはいってもこれまで全く彼の音楽に接したことがないので、どんな演奏になるか期待と不安が半々で臨んだライヴでした。
プログラムは以下の通り

1.「2つのロマンス」より
鄯ロマンス 鄱鐘
2.シャルル・ボードレールの5つの詩 より
恋人たちの死
3.喜びの島
4.ステファヌ・マラルメの3つの詩
鄯ため息 鄱ささやかな願い 鄴扇

5.ビリディスの3つの歌
鄯パンの笛 鄱髪 鄴ナイアードの墓
6.後戻りの夜の踏切(神田晋一郎・小阪亜矢子共作)
7.夜の音楽(神田晋一郎作)
8.セロ・ソナタ

前半はオール・ドビュッシー。神田のピアノは内省的で繊細な音響で、小阪の歌をときにはひきたて、ときには衣服のように包み込んでいました。ドビュッシーの歌曲を生で聴くのは初めてだったのですが、これほど歌と伴奏が官能的に絡んでいるものなのかと新しい発見がありました。3曲目の「喜びの島」はピアノ・ソロで小阪はステージ脇に控えていたのですが・・・途中からいつのまにか即興演奏となっていました。小阪もヴォーカリゼーションで加わってきます。即興といってもジャズ的なものではなく、ひとつひとつの和声の響きと間を重視した音数は少ないながらも緊迫感のある演奏で、終了しても私を含めた観客は拍手をするタイミングがつかめず、そのまま「ステファヌ・マラルメの3つの詩」に移行したのでした。

休憩をはさんで第2部は「ビリディスの3つの歌」でスタート。緊張がいい意味でほぐれたのか、心なしか前半より余裕の感じられる、広がりのある歌と演奏でした。そして神田の作品が続きます。「後戻りの夜の踏切」はヴォーカリゼーションの合間に文章の断片の朗読が時折差し挟まれる即興性の濃い音楽。「物語」や「言葉」になろうとしてなりきれなかった音が虚空に散っていくのを見ているような心地にさせられました。続く「夜の音楽」は完全なピアノ・ソロ。内にテンションを孕んだ美しい響きが繊細に配置された、密やかな音楽でした。そして最後はチェロ・ソナタ。チェロのパートを小阪がヴォーカリーズで歌い上げたのですが、締めにふさわしい力のこもった歌唱でした。神田のピアノも力強さを増し、これまで歌に寄り添うようだったのがここにきて歌と対峙する場面もしばしば聴かれスケールが大きい音楽を展開してくれました。
全体としてドビュッシーの世界と神田の世界が違和感なく共存したユニークなライヴで充分楽しめましたよ。