ムーンライダーズ『マニアの受難』

ムーンライダーズドキュメンタリー映画「マニアの受難」を見ました。単館でしかもレイトショーという、あまり良くない条件の下での上映。内容もある程度ムーンライダーズの歴史に通じていないとよく分からない、初心者にはかなり不親切なもののように思われましたが、ファンならばやはり見ておきたい映画です。それも見こした上でのタイトルなんだろうなあ。

演奏シーンは日比谷野音での30周年記念ライヴが中心。次から次へと登場するゲストに興奮しながら見ていたあのときの時間が蘇ります(私のレポはこちら)。惜しむらくは全曲演奏されないところ。これはサントラで補うしかありません。

メンバーが過去を振り返る部分は既知のことが多かったのですが、各時代のレコード会社のディレクターがどうやってライダーズを売り出そうとしたかを語るところは興味深く聞けました。他には岡田徹が「9月の海はクラゲの海」の“ドーン”という音をどうやって生み出したかを語ったり、自分の重要なルーツとしてトム・ウェイツを弾き語りするところが良かったですね。

しかし、この映画が最も強く訴えていることは“ムーンライダーズは東京のインダストリアル・ロック・バンドである”ということではないでしょうか。冒頭から執拗に挿入される鈴木兄弟の実家のある羽田工業地帯の風景と工場のノイズ。鈴木博文が工場を訪れマイクで作業中の音を集音するシーンを見ているとどうしたって『マニア・マニエラ』で描かれた世界を連想せずにはいられないのですが、白井康彦監督はこの羽田のサウンド・スケープこそがデビューから現在に至るライダーズの底流に流れているもので、けっして一過性の興味本位のものではないと捉えているように見受けられます。そういった意味では、羽田の路地裏らしきところを歩く博文がポリバケツに捨ててある鍋(?)の蓋を一緒に捨ててあったお玉で叩き、その金属音が白井良明がスタジオでギタギドラの即興演奏をする場面にオーヴァーラップするシーンこそがこの映画の白眉ではないでしょうか。ポップ・サウンドの実験をいろいろ試みてきたムーンライダーズですが、どんな実験的なサウンドも理念先行のものではなく、彼らの過ごしてきた生活風景に根ざしているなのだ・・・というメッセージが強烈に伝わってきました。エンディング・テーマである新曲「A Song For All Good Lovers 」のサウンドもそのことを裏打ちしているように感じられます。

このほかにも「日本語とロックのサウンド」の問題(細野晴臣は「まだ解決していない」と語っていました)や、「バンドという共同体のあり方」についてなど色々考えさせられることが多い映画でした。