シャルロット・ゲンズブール『5:55』

“5:55”

“5:55”

20年ぶりとなるソロ・アルバム。最初に聴いたときは普通のポップスだと思ってやり過ごしていたのですが、聴きこむ程にどんどん良くなってきました。
20年前の1stソロ『魅少女シャルロット』は全曲父親であるセルジュ・ゲンズブールが手がけたもの。当時15歳だったシャルロットのか細い声には聴いているうちになんだか罪悪感すら感じさせるほどの危うさ、はかなさがありました。今作でも彼女のウイスパー・ヴォイスは健在ですが、年相応の落ち着きがあり、危うい感じはもうありません。ナイジェル・ゴドリッチのプロデュースもことさらにエキセントリックな演出は避け、シャルロットの魅力をやや翳りのある、品の良いサウンドに包み込んで提出しています。一見普通に思えてもじっくり耳を傾けているとそれぞれの素材に質の高いものを使っていることがわかってきて惹きこまれるのです。作曲を手がけたエール、ドラムのトニー・アレン(全盛期のフェラ・クティのアフロ・ビートを支えた名ドラマー)、ストリングス・アレンジを担当したベックの父親、デヴィッド・キャンベルなど、それぞれが出しゃばることなく適所に配置され高水準でバランスのとれたサウンドを織り成し、シャルロットのヴォーカルを引き立てています。彼女がセルジュ・ゲンズブールの娘であるとか、女優として活躍しているなどの予備知識がなくても充分に楽しめる完成度の高いポップ・アルバム。こういうアルバムってありそうでなかなかないので貴重ですよ。