12/10 上野洋子"YK20"〜20周年につき初ソロ〜@東京キネマ倶楽部

ザバダックからキャリアをスタートした上野洋子ザバダックを脱退(のれん分けと称していた)後はCMやアニメの音楽、マーシュ・マロウヴィータ・ノヴァへの参加、ヴォーカルの多重録音によるソロ・アルバムや、アスタリスク名義でポップスとインストをやったりと幅広い活動を展開してきました。しかし意外にも自分のオリジナル曲を中心としたソロ・コンサートは今までやってなかったとのこと。そんな彼女が音楽活動を記にようやく重い腰をあげてソロ・コンサートを大阪と東京の2箇所で行いました。
選曲はザバダックをはじめ、手がけたアニメ、新作が出たばかりのアスタリスクなどなど、まさに20年を俯瞰する内容で申し分なし。それにしてもその多彩さには驚かされます。彼女の音楽はブルガリアン・ヴォイスやアイリッシュおよびスコティッシュ・トラッドをはじめ、様々な要素が溶け込んだもの。変拍子も多用された複雑さをもちながら、ぎりぎりのところでポップに踏みとどまっているその音楽はまるでフランク・ザッパ細野晴臣がエンヤを共同でプロデュースしたかのようです。
そんな多面的な彼女の音世界を生で表現するために集まったメンバーは、海沼正利:Percussion、鬼怒無月:Guitar、仙波清彦:Drums、武川雅寛:Vln,tp,mandolin、棚谷祐一:Keyboard、中原信雄:Bassといった凄腕ぞろい。中原の重低音ベースが底をしっかり支え、その上で仙波が楽々と変拍子を叩き出し、海沼が多彩なパーカッションでそこにからんでいく。武川はヴァイオリン、トランペット、マンドリンを次々と持ち替え、曲によってはヴァイオリンを肩に挟んだままトランペットを吹いたりと活躍していました。裏方に徹しながらも要所でポイントを押えた演奏を聴かせた棚谷、そして時に繊細に、時に激しくギターをかき鳴らす鬼怒無月と、それぞれが存分に個性を発揮していたのですが、主役である上野のヴォーカルも負けていません。太田裕美を思わせる可憐さを持ちながら、サウンドに埋没しない力強さがある歌唱。ハイトーンの伸びやかさ、美しさもザバダック時代と比べても全然衰えていませんでした。
前半はアニメからの曲を3曲続けたり(初めて聴く曲ばかりで新鮮でした)、6曲メドレー(最後のザバダック時代の名曲「アジアの花」が良かった)など、彼女の歌の多面性を中心にした展開。そしてメンバー紹介となったのですが、ここでのメンバーと彼女のやりとりが面白かったです。特に仙波との長いつきあいのせいで自分の曲がどんどん複雑になって・・・と述べる上野に、すかさず仙波がわざとシンプルなビートを刻んだり、(鬼怒は)普段もっと複雑な音楽をやっているんで、こんなポップスなんてやってくれるかなと思って頼んだら快諾してくれたと上野が話すと、「えっ、これってポップスなんですか」と鬼怒が返したりしたところが良かったですね。
そして後半は個々のメンバーにもスポットが当たります。鬼怒無月の絹の織物のような美しいアコースティック・ギターの伴奏。一転エレキを手にしての高速ソロ。海沼の大迫力の激しいスティール・ドラム・ソロ。変幻自在という言葉がふさわしい仙波清彦のドラム・ソロと凄まじい演奏が次から次へと飛び出します。果ては大駱駝艦の白塗りのダンサーまでステージ向って左の踊り場から登場する曲もあり、怒涛の展開に呆気にとられているうちにいよいよ最後の曲を残すのみとなりました。
ここで上野は「一度やってみたいことがあるのですが」と前置きして、最初からアンコールありきのコンサートはおかしいとかねてから考えていた。ステージは構成を考えてつくっているから、アンコールはなしで綺麗に終わりたいといった主旨のことを話しました。残念でしたがこのこだわりは上野らしくて納得できるものがありました。そうして最後に鈴木慶一作詞のしっとりとした名曲「Seven Swan Songs」を歌い上げてコンサートは終了。まさに「音宇宙」という形容がふさわしい、スケールの大きさと多様性をもった上野の世界にたっぷりと浸った2時間でした。

<セットリスト>

※知らない曲が多かったので大阪公演のセットリストを掲載したblogをいろいろと参照しました。なかでも http://d.hatena.ne.jp/uenoyoko/20061210 を大いに参考とさせていただいています。どうもありがとうございました。

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