マーティン・カーシー『マーティン・カーシー』

マーティン・カーシー

マーティン・カーシー

ブリティッシュ・フォーク界の重鎮が65年に発表した1st。収録曲のほとんどがトラッド・ナンバーで、予備知識なしに聴くとフォーク・シンガーによくあるギター弾き語りを中心にしたアルバムということになるのですが、彼の登場以前のトラッドはほとんどが無伴奏による歌唱だったのですから、トラッドにギター伴奏をつけたカーシーの登場はブリティッシュ・フォーク・シーンにとって革新的な出来事だったのです。とはいえ、シンプルにつまびかれるギターと硬い声によって織り成されるカーシーの歌は、革新者というよりどこか求道者的な佇まいを感じさせ、デビュー作にしてある種の風格すらあります。その雰囲気は一見とっつきにくい印象を与えがちですが、じっくり耳を傾けるとなんとも味わい深く滋味豊かな世界が広がっていることに気がつくでしょう。ポール・サイモンがここに収録されていたトラッド・ナンバー「スカボロー・フェア」をちゃっかり自作扱いにしてしまったことは今では有名ですが、そういったことを含めて大きな影響を当時の音楽シーンに及ぼした静かなる傑作です。