11/24 ムーンライダーズ「OVER the MOON/晩秋のジャパンツアー2006」@渋谷C.C.LEMONホール

結成30周年ということでいつになく精力的な活動を展開してきたムーンライダーズ。12月に映画の公開が控えていますが、ムーンライダーズ本体の活動としてはこの日のライヴで今年の活動は終了となるそうです。
春の日比谷野音はゆかりのゲストを多数招いた「ラスト・ワルツ」的なコンサートで、彼らの足跡を振り返り祝うといった祝祭的雰囲気が濃厚でしたが、今回は必要最小限のサポートを加えただけで、選曲も最新作『Moon Over the Rosebud』中心。既に回顧やお祭りは済み、31年目に向けて前進する彼らの姿をはっきりと示したライヴとなりました。

このことはライヴの構成からもうかがえます。オープニングは「When This Grateful War is Ended 」。イントロが流れる中ステージに向って右手にスポットが当たるとメンバー6人が白い円卓に座っています。やがてくじらが席を立ちヴァイオリンを弾きはじめ、徐々に他のメンバーもそれぞれの持ち場につき、おもむろに歌がはじまりました。この異様に重い始まり方からは「これはもうお祭りじゃないんだぞ」という無言のメッセージがひしひしと伝わってくるようで、思わずこちらも姿勢を正してステージの様子を見守っていました。2曲目は映画「マニアの受難」エンディング・テーマの「A Song For All Good Lovers」。これも決して明るくない音響的な曲なので、客席もしんとして耳を凝らして聴きいっていました。そしてようやくアップテンポの「WEATHERMAN 」が登場。XTCっぽいギター・カッティングがかっこいい「果実味を残せ! Vieilles Vignesってど〜よ!」が続きます。最初にこの2曲で始まっていればいわゆる「普通の」コンサートらしくなるのでしょうが、そうしなかったところにこそ逆説的ではありますが彼らの「攻めの姿勢」を強く感じました。

前半はこのまま新作からの曲をたたみかけていきましたが、映像や照明が昨年の「P.W.Babies Paperback」時のライヴと比べて格段に工夫されていたのが見物で、演奏もツアー最終日ということで慣れてきたのか安定感があり安心して聴けました。曲間をSEでつないでいたのも良かったです。ただし全体の雰囲気は決して明るいものではなく、新作に潜んでいた影の部分をくっきりと浮かび上がらせたものとなっていた印象です。彼らはやはりかつて佐々木敦が喝破したように「おわり」と「最悪」とに憑かれているバンドなのだなあと実感させられました。武川のマンドリンが美しく響く「琥珀色の骨」でのガイコツの映像や、慶一がテーブルにつっぷして歌う演出の「Vintage Wine Spirits, and Roses 」にその憑かれている部分が顕著に現れていたと思います。「When This Grateful War ・・・」の後半部分(Scam Party〜)で一旦照明が落ちて一段落。第1部終了といったところですね。

すぐに始まった第2部はシングル「ゆうがたフレンド」からスタート。こんなにライヴ映えする曲とは思いませんでした。ポップ・ジャムの放映が楽しみです。間奏に「ラムの大通り」を挟む洒落た演出がほどこされた「腐った林檎を食う水夫の歌」と続き、今度はポップ・バンドとしてのムーンライダーズの姿が前面に出てきました。そして各メンバーにスポットを当てるコーナーへ。先陣を切ったのはかしぶち哲郎。それまであまりドラム・セットをたたかず(その分サポート・ドラムのカーネーション矢部浩志が大活躍)、座りながらシンセ・ドラムやキーボードばっかり弾いているので見ていて心配だったのですが、心配無用とばかりに新作から「Dance Away」を熱唱。さらに続けて歌ったのはなんと初期の名曲「砂丘」!30年の刻を一気に飛び越えた驚きの選曲に感無量の状態となりました。ゲスト・コーラスのsachiの澄んだヴォーカルが会場の隅々まで染みとおっていく様は個人的にこの日のハイライトでした。時を経ても変わらないかしぶちのロマンティズムに感動です。

驚きはなおも続きます。次にフィーチュアされたのは鈴木博文。聴き慣れないイントロで何をやるつもりかと思っていたら、これまた初期の曲「シナ海」でした。こちらではふーちゃんの叙情性も一貫していることが伝わってきましたが、線の細い演奏だったオリジナル・アルバムのヴァージョンよりはるかに腰の座ったサウンドムーンライダーズが乗り越えてきた時間の重みをむしろ実感させられることになりました。
岡田ヴォーカルの「ニットキャップマン」を挟んで良明の「ニットキャップマン外伝」へ。かしぶち、博文、岡田の曲では繊細なバッキングをつけて曲を引き立たせていたギター番長がようやく回ってきた自分の曲でついに全開となって轟音を響かせます。ここから一気にアッパーな展開へ。「馬の背に乗れ」で腰が重いファンを立たせ、「トンピクレンッ子」でワッホッホと叫ばせ、「工場と微笑」で拳を振りあげさせました。慶一も客席に乱入し、ファンを引き連れ駆け回る。第1部での重々しさがウソのような雰囲気に(笑)。これもまたムーンライダーズなのだなあ。そして「ダイナマイトとクールガイ」とその続編の「Cool Dynamo, Right on 」で本編終了。

アンコールではまずくじらと慶一のみが出てきてちょこっと歌い、「Rosebud!」と慶一が叫んでまた退場。まさかこれで全部終わりじゃないだろうな、と思っていたら、ちゃんとした(笑)アンコールもありました。「BEATITUDE」「DON'T TRUST ANYONE OVER 30 」「Who's gonna die first ?」の強力な3連発。私も含めた2階席のファンもここに至ってようやく大半が立ち上がり大いに盛り上がったのであります。全体を通して、これまで経てきた時の重みを受け止めながらも強力に前進するムーンライダーズのパワーを存分に見せつけてくれた内容でした。記念すべき1年を締めくくるにふさわしい充実したコンサートだったと思います。