エルメート・パスコアール『スレイヴス・マス』

スレイヴス・マス(紙ジャケット仕様)

スレイヴス・マス(紙ジャケット仕様)

怒涛の紙ジャケ再発が続くなか見過ごされがちですが、ブラジルの奇才、エルメート・パスコアールの作品も紙ジャケで登場しました。
1970年にマイルス・デイヴィス『ライヴ・イヴル』のスタジオ・パートに参加した経歴もあるエルメート・パスコアールですが、70歳を越えた現在も活動を続けており、なんと20歳台(!)の奥さんと共同名義の作品をつい最近リリースしたりしているのです(DVDも同時リリースされており、めちゃくちゃ面白い)。今回再発された作品はそんな彼の世界の入門にぴったりの名作揃いですが、中でも有名なのが今回取り上げた『スレイヴス・マス』。1977年発表の3作目に当たる作品で、アイルト・モレイラ&フローラ・プリム夫妻がプロデュースを担当し、エルメートの幅広い音楽性を時代に即したサウンドでわかりやすく提示しているのが特徴です。
1曲目の「ミキシング・ポット」はチェスター・トンプソンとアルフォンソ・ジョンソンのリズム隊が活躍するブラジリアン・フュージョンで聴き易い曲ですが、いきなり豚の鳴き声が聴こえる呪術的な表題曲から徐々にエルメートの世界にひきこまれていきます。フルートとヴォイス・コラージュによる不思議な世界「キャノン」や激しいスキャットを交えながら繰り広げられるピアノ・ソロ「ジャスト・リッスン」、ワルツとサンバの併せ技「ザット・ワルツ」など、どれも一筋縄ではいかない曲ぞろい。けれどもどこか親しみやすいところがあって難解とは決して感じさせません。ジャズとブラジリアン・ミュージックをベースに思う存分イマジネーションを羽ばたかせたエルメートの世界を知るのには恰好のアルバムといえるでしょう。