フェアポート・コンヴェンション『フル・ハウス』

フル・ハウス+5(紙ジャケット仕様)

フル・ハウス+5(紙ジャケット仕様)

1969年から70年にかけてのフェアポート・コンヴェンションは音楽的にはピークを迎えていましたが、グループの内情は様々なアクシデントが発生し、大きく揺らいでいました。エレクトリック・トラッドに大きな一歩を踏み出した3rd『アンハーフブリッキング』の録音途中にソングライティングの一角を担っていたイアン・マシューズが脱退。録音直後にはドラムのマーティン・ランブルが自動車事故によって他界するという悲劇にみまわれます。フィドルのデイヴ・スウォーブリック、ドラムにデイヴ・マタックスを迎えてこの危機を乗り越えた彼らは名作『リージ&リーフ』を発表しますが、今度はヴォーカルのサンディ・デニーと、ベースのアシュレー・ハッチングスが相次いで脱退。グループは「声」と「頭脳」をいっぺんに失ってしまったのです。グループ存続の危機といっていい自体に直面した彼らですが、新しいベーシストとしてデイヴ・ペグを加え再び活動を開始し、本作『フル・ハウス』を録音を開始します。これだけの出来事がわずか2年の間に起こったのですから、まさに激動の日々といってもよいでしょう。

サンディ・デニーがいなくなったことでヴォーカルが弱くなったことは否めないのですが、それを補って余りある演奏力をこの時期のフェアポートは身につけていました。デイヴ・ペグ&デイヴ・マタックスによる強靭なリズム隊もさることながら、リチャード・トンプソンがついにギタリストとしての個性を確立したことが大きい。デイヴ・スウォーブリックのフィドルとユニゾンやソロをかけあうことでアンサンブルをぐいぐいと牽引し、凄まじい緊張感を生み出していく様には、時にキング・クリムゾンを彷彿とさせる瞬間すらしばしば訪れるのです。

残念ながらこの作品の後、リチャード・トンプソンはグループを脱退してしまいます。その後の彼の活動も実り多いものではあるのですが、できればもう少しグループに留まって、あと数枚アルバムを残してくれていれば、と思わずにいられません。