スティング『ラビリンス』

ラビリンス

ラビリンス

スティングの新作を買うなんていつ以来だろう・・・『ブルー・タートルの夢』、『ナッシング・ライク・ザ・サン』といった初期のアルバムは愛聴しましたが、いつしか彼の音楽は私には縁遠いものとなっていました。
そんな私がこのアルバムを手にしたのは、なんと中世イギリスの作曲家、ジョン・ダウランドの曲に挑んだ作品ということを聞いたからに他ありません。ジョン・レンボーンのアルバム再発などを機に古楽への興味が再燃しつつあったところにドンピシャとはまった企画作でありました。
スティングは本作のライナーノーツも自分で書く気合の入りっぷりで、それによると20年以上にわたってダウランドの歌曲に惹かれていたというのですから、まさに満を持しての作品でしょう。そして実際、充分な聴き応えを感じさせる音楽となっています。成功の要因は“ジョン・ダウランドは1563年に生まれているが、今では珍しくなくなった疎外されたシンガー・ソングライターというものの、おそらく先駆けであったろうし、何か現代的な鋭い共感を覚えるものが彼にはある。”という立場にたって曲にアプローチしたことにあるでしょう。スティングはダウランドの曲をロック・アレンジでむりやりこっちの時代にあわせたわけでもなく、自分の発声を古楽風にして己をむりやりダウランドの時代にあわせたわけでもありません。リュートの名手エディン・カラマーゾフの素晴らしい伴奏に対し、自分がこれまでのキャリアで培ってきたヴォーカル・スタイルを対峙させることで、彼がダウランドに感じた“現代的な鋭い共感”が聴く者にも自然と伝わってくるのです。決して懐古趣味の作品ではありません。この作品が従来のスティングのファンや古楽愛好者にどのように受け止められるのかは分かりませんが、私にとってはスティングの音楽に久々に“リアル”を感じる1枚となりました。