ブライアン・イーノ、ダニエル・ラノワ、ロジャー・イーノ『アポロ』

アポロ(紙ジャケット仕様)

アポロ(紙ジャケット仕様)

このアルバムはNASAによるアポロ宇宙探検計画のドキュメンタリー映画サウンドトラックとして制作された音楽で、ブライアン・イーノがダニエル・ラノワと弟のロジャー・イーノとの共同でつくりあげたものです。
映画と音楽の関係についてイーノは、

私はこれをアドヴェンチャー・フィルムとは見なさないし、アドヴェンチャー・ミュージックを書いたわけでもない。この映画にできるのは、一連の雰囲気、おそらくはこれまでに誰一人として抱いたことのない、独特な入り混じった感情を提供し、それによって、あの任務が私たちの境界を広げたように、人間の感情の範囲を広げることだ。その上で、この音楽が役に立つことを願う。

と語っていますが、ここでのイーノ達は、冨田勲の“スペース・サウンド”や「スターウォーズ」の画面に響き渡る華麗なオーケストラとは180度異なるアプローチを試み、宇宙空間の“気配”(Atmospheres)の音像化に挑んで、それに成功しています。
特に前半の、イーノとラノワが中心になっている楽曲は、『オン・ランド』から瘴気を除いたような、深い低音の上に漂う電子音が清冽な印象を与えるもので、聴いていると部屋の温度が見る見るうちに下降していくかのような気分に襲われます。ラッセル・ミルズによる、メタリックな感触のジャケットのイメージとも通じるものがあるように感じますね。
一方、ロジャー・イーノが加わる後半はメロディーやハーモニーもしっかりと浮かび上がる親しみやすい曲が並びます。数曲でラノワのギターも聴くことができますが、後年の彼のソロ・アルバム『アカディ』などを通過した耳で聴くと、ルーツ・ミュージック的な側面が感じられるのが面白い。もちろん巧みな音響設計によって浮遊感と透明感が付与されていて、全体のイメージを損なうものにはなっていないのですが。
イーノによるアンビエント・ミュージックのコアなファンには、「ずっと前半の調子で行けばよかったのに・・・」と思う方もいるかもしれません。けれども、“非人情”な前半とややロマンティックな後半の2種類の音楽があることによって、先に引用したイーノの発言「独特な入り混じった感情」を描き出すことができたのではないでしょうか。アンビエント・シリーズの成果を踏まえた、イーノの代表作のひとつと呼ぶにふさわしいアルバムだと思います。

関連リンク

<過去の日記から>

・『アポロ』に通じる感触がある、フリップ&イーノの目下のところ最新作
http://d.hatena.ne.jp/huraibou/20050405

ハロルド・バッドと組んだ、アンビエント・シリーズ最高傑作
http://d.hatena.ne.jp/huraibou/20040112

・ダニエル・ラノワが初参加した異色作
http://d.hatena.ne.jp/huraibou/20060310

・ラノワのスティール・ギターが堪能できる作品
http://d.hatena.ne.jp/huraibou/20050808