ヘルベルト・ヘンク『モンポウ:ひそやかな音楽』

Musica Callada

Musica Callada

ECMからリリースされたモンポウの作品集。

“カタロニアのピアノの詩人”と呼ばれた作曲家、フェデリコ・モンポウが1959年から67年にかけて作曲した小品集が「ひそやかな音楽」です。あくまでも自分自身のために書いた、という性格が強く、作品の出版もためらったという逸話が残されています*1が、内容はモンポウの集大成といって良いものです。教会の鐘作りの家に育ち、工場で鋳あがった鐘を試しに鳴らす音に不思議な感動を覚えたという少年の頃の記憶、生まれ育ったカタロニアの民謡、作曲家になろうと思うきっかけとなったフォーレの音楽、そしてドビュッシー、サティ・・・など、モンポウの音楽を形作っていった様々な要素がここでは一段と浄化され、調号記号も小節線もない、簡潔でありながら自由な書式となって結晶しているのです。

題名の由来は、14世紀の詩人サンジュアン・デラクルツの作品、「魂の歌」からの一節に含まれていた“沈黙の音楽,鳴り響く孤独”から取られたもの。前衛音楽の潮流に巻き込まれることなく、独自の作風を保ったまま、ピアノの小品をぽつぽつと作曲し続けてきたモンポウ自身の姿そのものといえます。そして、“沈黙の次に美しい音楽”を標榜しているECMとのつながりもここに見出せるでしょう。北欧のレーベルであるECMとスペインの作曲家、モンポウの組み合わせは一見ミスマッチに思えるものの、確かに「ひそやかな音楽」にはECMに通じるところがあります。ECMの総帥マンフレッド・アイヒャー、さすが慧眼の持ち主です。

モンポウ自身による名演もある、この「ひそやかな音楽」*2ですがアイヒャーが白羽の矢を立てたのはヘルベルト・ヘンク。1948年生まれのピアニストで、現代音楽のスペシャリストです。これもこの曲が比較的民族色が薄いからこそできる人選ですね。甘さに流れず、緻密に計算された音づくりでこの曲の響きを繊細に表現しています。ECM独特のサウンドの質感も新たな曲の魅力を引き出すのに一役買っているのではないでしょうか?

*1:全4集からなり、最後の第4集はアリシア・デ・ラローチャに捧げられています

*2:モンポウの自作自演盤はブリリアント・レーベルからお得な値段で発売されています