エヴリシング・バット・ザ・ガール『ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライト』

エヴリシング・バット・ザ・ガールチェリー・レッド・レーベルからデビューしただけに、ネオアコを代表するグループとされがちですが、しばしば大胆なサウンド・アプローチを試みてファンを驚かせてきました。『哀しみ色の街』でのドラムン・ベースがその最たるものといえますが、このアルバムが出たときの驚きもかなりのものでした。カジュアルなファッションを小粋に着こなしていたカップルが、いきなりタキシードとドレスで登場してきたかのような印象を受けましたね。というのも、この3rdアルバムではベン・ワット自身がアレンジを手がけたゴージャスなオーケストラ・サウンドが全体を包み込んでいるからです。ハリウッドの映画音楽やスタンダードへの憧れを結晶化させた作品といえるでしょう。ジャジー&ボッサな1st、ポップな2ndの成功で自信をつけたであろう彼等が、さらに踏み出した大きな一歩。3rdアルバムというのは、どのアーティストにとっても重要であり難しい位置にあると思います。最初の勢いだけで押し切ることはできず、同じことを続ければマンネリと言われかねない。これまでのファンを満足させながらも新生面を見せることができるのか・・・その見事な回答のひとつがここにあります。


このアルバムを成功に導いたのは、ベン・ワットの力量もさることながら、トレイシー・ソーンのヴォーカルの魅力を忘れるわけにはいきません。デビュー当初のどこか頼りなげな風情はすっかり消えて堂々とした歌唱を聴かせてくれています。ベン・ワットのヴォーカルが好きなファンとしては、このアルバムで彼の歌が聴けないのはちょっと残念なのですが、それだけ彼女の成長が目覚しかったということでしょうね。とはいえ、あまり上手すぎるとえてしてつまらなくなってしまいがちなのですが、彼女の歌にはまだどこかに硬さ、青さが残っていて、それがこのアルバムにロックとしてのエッジを感じさせてくれる大きな要因となっています。ゴージャスではあるけれど気取ってはいない、それが他の彼等のアルバムにはない、本作最大の魅力。シンプルなサウンドに回帰した次作『アイドルワイルド』の味わい深さもこのアルバムでの試みがあってこそではないかと思うのです。