寺山修司ラジオ・ドラマCD「まんだら」

寺山修司ラジオ・ドラマCD「まんだら」

寺山修司ラジオ・ドラマCD「まんだら」

祭りの夜、どこからともなく町に現れた21歳の女性、チサは墓石を刻むことを職業としている謙作と出会う。謙作はチサを連れて寺の地獄絵図を一緒に見にいく。地獄絵を目にしたチサは自分が幼くして死んだフミの生まれ変わりであったことを思い出す・・・。


寺山修司が60年代に集中して制作した一連のラジオ・ドラマが昨年CD化されました。今回取り上げた「まんだら」はその中の1枚です。音楽が湯浅譲二が手がけていることに興味を持って購入しました(もう一枚、「恐山」も買っています。こちらの音楽は間宮芳生でやはり興味深い)。
上に記しているのは物語の初めの場面です。これだけだとかなり強引な導入部に見えますね。なんで初めて出会った若い男女がいきなり地獄絵図を見に行かなくてはならないのか。これに説得力を持たせているのが奈良岡朋子の物憂げなナレーションと湯浅による音響構築なのです。子供たちが歌う童謡がゆっくりとフェイド・インしていった後、突如として爆発音のような電子音が轟く。そしてそこに太棹三味線の音色がゆらめくように立ち現れていき、ナレーションが静かに物語を語り始める・・・。この強烈な冒頭で聴き手はいやがおうにも物語の世界に引き込まれずにいられません。


オルフェウスの神話のモチーフが底流にあるこの転生譚に対して、湯浅が選んだのは2種類の異なる音響を生の世界と死の世界に対応させることでした。生の世界で響く音楽には太棹三味線が用いられています。舞台は青森とおぼしいのですが、津軽三味線ではなくてあえて太棹三味線を選んだのが、聴き手を実在の土地に囚われすぎないようにする効果を与えています。
そして、メインとなる死の世界の音楽はホワイト・ノイズを中心とした電子音響とミュージック・コンクレートです。淡々とした調子で語り合う主人公達の空間を引き裂くように鳴り響くノイズや、緊張感を孕んだアンビエント的な電子音の効果には凄まじいものがありました。地獄絵図の衝撃をおどろおどろしいものではなく、抽象的なサウンドで表現することで返って想像力が広がっていくのです。祭囃子や子供たちの合唱も要所要所で効果的に差し挟まれ、「祭り」という非日常の空間を際立たせています。だからこそストーリーに不思議なリアリティが生じているといえるでしょう。
出演者では、ナレーターの奈良岡朋子以外ではチサを演じた吉田日出子が良かったです。押えた口調の中にときおり可愛らしさをのぞかせるところが魅力的でした。