マトモス『ザ・ローズ・ハズ・ティース・イン・ザ・マウス・オブ・ア・ビースト』

マトモス

まっともーす!近年のビョークサウンドづくりに欠かせない存在となったマッド・サイエンティストな2人組みの新作です。
彼らのアルバムはポップを装っているサウンド・コラージュ的作品なのですが、年々手が込んできて、今作でひとつの頂点に達しています。しかしこれはビョークの影響か、聴き易さも増しているのが面白いところで、このアルバムも妙に人懐っこい感触をもった、キュートな仕上がりです。


今作は彼らが敬愛する11名の偉人達の肖像を音で描いた(サウンドポートレート)というのが特徴。でもまずは解説などを読まずに聴いてみることをお勧めします。なにやらヘンテコな音が耳をくすぐるかと思えば、突然ディスコ・ビートが飛び出すといったおもちゃ箱の中身をぶちまけたようなサウンドは、モンド・ミュージックが好きな方なら予備知識がなくても充分楽しめるはず。そして改めて解説を読みながら聴いてみると、その奇想天外なアイディアの数々に改めて唸らされたり、あきれたり(笑)と、これまたたっぷり楽しめるのです。1枚で2度おいしいアルバムですね。


最初は解説などは読むなといいながら、以下の文章はネタバレになっちゃいますが、例えば1曲目。これはヴィトゲンシュタインの肖像を描いているのですが、彼の主著「哲学探究」の中の薔薇と歯のメタファーを取り上げ、それに的を絞って音素材を選んでいます。薔薇の花にシャベルで土をかぶせる音や、牛の食事音などの具体音と電子音が融合されたサウンド。そこにビョークらが朗読した「哲学探究」の一節まで重ねていく凝りよう。この調子がアルバムの最後、11曲目の三島由紀夫の肖像まで続くのですから感心するやらあきれるやらです。牛の性器に空気を吹き込んで音を出すは、カタツムリにテルミンを演奏させるは、剣道の稽古の音を使うやらともうやりたい放題。毎日こんなことばっかり考えているのでしょうか。この人達は(笑)。しかし、これがちゃんとポップ・ミュージックとして成立しているのだからすごいですね。マトモス、会心の一作だと思います。