CAN『Saw Delight』

Saw Delight (Hybr)

Saw Delight (Hybr)

CANの諸作品中もっともポップな作品。ひょっとしたらクラブ受けするかもわかりません。ホルガー・シューカイがサウンド・エフェクトに専念するため、トラフィックからベーシスト、ロスコー・ジーパーカッショニスト、リーボップ・クワク・バーが加入して制作された1977年のアルバムです。


新メンバーの影響ははっきりとサウンドに現れていて、アフロ・ファンク的なポリリズムと、ソウル的なグルーヴが2人によってもたらされています。これは元々いたドラムのヤキ・リーベツァイトのリズム感覚とは明らかに異質なもの。その微妙なかみ合わなさにかつてのCANらしさを辛うじて感じることができるといえるでしょう。実際ここで聴けるサウンドは確かに快適なものですが、逆にいえばマルコム・ムーニーやダモ鈴木が在籍していた時代のヤバさがほとんど残っていないことの裏返し。『モンスター・ムーヴィー』や『フューチャー・デイズ』がもたらした、陶酔感と不安が表裏一体となったぶっとんだ感覚はここでは望むべくもありません。要するに普通のバンドっぽくなった、ということ。


・・・とはいうものの、これは過去の彼らの作品と比べての贅沢な不満に過ぎません。1枚のポップ・アルバムとして捉えれば明るく、聴きやすくて完成度の高い作品なのです。大曲「Animal Wave」でのアフロ・ビートとミヒャエル・カローリのギターとの絡みは聴きごたえあり。なんだかんだいって後期のCANの中では一番良く聴いたアルバムです。