佐藤允彦『SATOH Masahiko Plays TOGASHI Masahiko ORIGIN』

huraibou2006-05-15

佐藤允彦による富樫雅彦作品集も4作目となりました。このシリーズは現在作曲活動に専念している富樫の現状を知ることができる貴重なものです。1作目はメロディ重視のバラード・アルバム。2作目はフェンダー・ローズも起用し音色に幅を持たせたもの。3作目はフリー・フォームの比重が強まった内容、と一作ごとに新しい趣向が織り込まれているのが特徴。


そして最新作の今作では富樫雅彦の原風景(=ORIGIN)を追求することがテーマとなっています。富樫が作曲に用いているエレクトリック・ピアノRoland HP-900Lをほとんどの曲で使用しているのです。佐藤の言葉によると、富樫の枕元には脚部を外したRolandが置かれており、楽想が浮かんだとき、すぐにそれを手許に引き寄せて弾けるようになっているそうです。現在、この機種は製造中止になっているので、録音にあたっては楽器を富樫宅から運び出し、鍵盤のアクションを調整し、スタジオに搬入して使用したとか。


私自身は作曲というのは不案内なので推測になるのですが、楽器を用いて作曲する場合、やはりその楽器の構造や音色というものは曲の展開や楽想に大きな影響を与えるのではないでしょうか。ましてパーカッショニストとしての富樫は人一倍鋭敏で繊細な音色感覚を持っていたのですからなおさらです。


実際、このアルバムで聴けるRolandの響きはFender RhodesやWuritzerなどとは異なる独特の音色をもって聴く者を魅了します。繊細でまろやかな音色に耳を傾けていると、なるほど富樫の曲がもつシンプルで優しい美しさのあるメロディ・ラインはここから生まれてきたのかと思えてきます。ピアノだと少しかしこまった印象を与えた曲も親密さを持って心に訴えてくる。「Goodnight My Friends」や「Everlasting Friendship」という曲名に深くうなづかされるのです。


パーカッショニストとしての富樫の姿を生で見ることが出来なかったのは今でも悔やまれるのですが、「うたごころ」を持った作曲家・富樫雅彦も素晴らしいです。このシリーズがこれからも続くことを願っています。