ドノヴァン『太陽に向って:ドノヴァンの旅』

Try for the Sun: The Journey of Donovan

Try for the Sun: The Journey of Donovan

ドノヴァンの音楽活動40周年を記念して出されたBOX。ヴェルベットの装丁は品があっていいですね。傷が目立ちやすいのが欠点ですが・・・。肝心の中身ですがCD3枚に代表曲を収録。まあ妥当な選曲なのですが、いくら全盛期だったとはいえ60年代に偏り過ぎですね。もう1枚追加して70年代の作品をもっと入れて欲しかったです。レア音源も少ない。とはいえ、未だCD化されない日本公演のライヴ盤から2曲収録されているのはありがたいところ。


と、ベスト・アルバムという視点からは物足りなさが残るのですが、このBOXの真の価値はボーナスDVDにあります。『ゼア・イズ・アン・オーシャン』と題された、1970年に制作されたもののお蔵入りになっていたおよそ35分間のドキュメンタリーなのですが、これが素晴らしい。当時ドノヴァンが結成していたバンド「オープン・ロード」のメンバーと共にギリシャの島々を船で巡った様子を記録したものです。地中海の清澄な陽光が降り注ぐ光景の美しさはもとより、ドノヴァンの飾らない、気さくな人柄が生き生きと伝わってくるのがうれしいところ。海岸で遊び戯れる子供の様子を即興的に歌ったりしているシーンは微笑ましい。島々での演奏風景も収められていて、クロディーヌ・ロンジェ原田知世がカヴァーした「エレクトリック・ムーン」や「リキ・ティキ・タビ」などが聴けます。まさに“吟遊詩人”といった風情でそりゃー、渚十吾が興奮して鈴木慶一に電話してくるのも納得ですよ*1。全編を通して人生を肯定するポジティヴィティにあふれている、ドノヴァンのファンなら一度は見ておきたい映像です。


とはいえ、1970年といえばドノヴァンが親交を深めていたビートルズが解散した年。フラワー・ムーヴメントも既に下火になっており、ここで見られるようなポジティヴさは、ひょっとしたら時代の空気とはそぐわないものになっていたのかもしれません。そのために未発表になってしまったのでしょうか。あくまでも推測にすぎませんが・・・・。ともあれ、21世紀になってようやく見られるようになったことは素直にうれしいです。後は、現在制作中という新作と、伝説の日本公演のライヴ盤のCD化を心待ちにするといたしましょう。あ、そうそう『夢の花園より』のリマスター盤も出してほしいなあ。

*1:「我がメインテナンスの日々」3月3日の記事を参照のこと。http://d.hatena.ne.jp/suzukikeiichi/20060303