ピチカート・ファイヴ「カップルズ」

Couples

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最近「七時のニュース」がTVからよく流れてきますね。「オーヴァードーズ」までのピチカート・ファイヴのアルバムはどれも好きだけど、一番良く聴くのはこのアルバムです。初めて聴いたときは「日本にもここまで垢抜けた音楽をやる人達が出てきたんだ」とつくづく感心しました。当時の私はまだバカラックだってぽつぽつと聴きはじめたばかり。ましてやロジャー・ニコルズなんて誰それ?といった感じです。かろうじて「マジカル・コネクション」がジョン・セバスチャンのカヴァーということはわかりましたが・・・。“にもかかわらず”というべきか“だからこそ”というべきか、ノン・スタンダード時代のお洒落なテクノ・サウンドから一転、華やかで洗練されたオーケストラ・サウンドに包まれたこのアルバムには相当衝撃を受けたものです。特に「サマータイムサマータイム」の間奏で高らかに鳴り響くブラス・サウンド
この曲を友達に聞かせると、出だしのところでは皆「なんでこんなのがいいの?」という顔をしたものです。「歌詞が安い青春ドラマじゃん」とか「いくらなんでも歌がヘタすぎじゃない?」とかね。それが間奏になったら一様に「うおお〜」と感嘆するのが面白くてしかたありませんでした。


そして続く「皆笑った」は私にとって永遠のピチカート・ベスト・ソング。昨日のようなちょっと冷え込んだ春の日には「今年の4月はまだ寒くて、春が来てない」とか、食欲がなければ「お昼ごはんはサンドイッチだけ。食べたくもない」なんて口ずさんだりします。もっとも最近は「もう若くないのに」というフレーズばっかり思い浮かべることが多いのですが(苦笑)。
ただ、「もう若くない」という言葉はピチカート・ファイヴにとって重要な言葉ですね。これは実際の年齢のことではなくて、もうポップ・ミュージックには新しいことはほとんど残っていないという認識のことです。常にポップ・ミュージックにおける「新しいこと」を追求していたバンド、ムーンライダーズが「すべてのことはもう、一度行われてる」と歌って活動を一時停止したのと入れ替わるようにして彼等が登場してきたことは、なにかとても象徴的なことのように思われます。90年代の邦楽シーンはここから始まったという見方もできるかもしれません。