P・G・ウッドハウス「ウースター家の掟」

ウースター家の掟 (ウッドハウス・コレクション)

ウースター家の掟 (ウッドハウス・コレクション)

イギリスを代表するユーモア作家、P・G・ウッドハウスの翻訳が昨年から立て続けに出版されています。文藝春秋社は『ウッドハウス選集』として人気シリーズをそれぞれ1冊にまとめた全3巻のセレクション。まだ最後の第3巻が出ていませんが、ウッドハウスの概要をつかむのに適しているといえるでしょう。1巻目には付録としてイーヴリン・ウォー吉田健一のエッセイが収録されているのも見逃せないところです。


一方国書刊行会の『ウッドハウス・コレクション』は専ら“ジーヴス・シリーズ”を刊行しています。これまでに「比類なきジーヴス (ウッドハウス・コレクション)」(文藝春秋社版第1巻とかぶっているのが残念ですが、翻訳の調子がかなり異なるので読み比べる楽しさがある)「よしきた、ジーヴス (ウッドハウス・コレクション)」「それゆけ、ジーヴス (ウッドハウス・コレクション)」が出ていますが、今回新たにラインアップに加わったのが「ウースター家の掟」です。


簡単にジーヴス・シリーズについて説明すると、落語でいう“若旦那”的キャラである、それなりの教養はあるけれど、知恵が少々足りなくて、けれども友を助ける義侠心はたっぷりと持ち合わせている(「汝、友を落胆させるべからず」というのが他ならぬウースター家の掟のひとつなのです)バートラム・ウースターと、彼に仕える執事ジーヴスの2人が主人公の話の数々です。ジーヴズは主人がまきこまれるてんやわんやを鮮やかに解決する万能天才執事なんですね。このジーヴス、主人に対して常に控えめな態度を崩さない。しかし時には主人の服の趣味の悪さをたしなめたり、事件の解決によりちゃっかり自分もおいしい思いをしたりするなど、単なる忠実なしもべではありません。それがこのシリーズの大きな魅力なのです。


今回取り上げた「ウースター家の掟」は長編です。ウースターの友人であるイモリ研究家ガッシー・フィンク=ノトルや叔母のダリア叔母さんといった、このシリーズの他の作品でも度々登場するキャラクターに加え、魅力的な個性をもった登場人物が次々と登場。2組のカップルの結婚成立をめぐるトラブルと、有能なコックを失う危機に陥ったダリア叔母さんなどの難題に心ならずも巻き込まれてしまうウースター。ひとつの問題の解決のメドがたつと一方の事態が悪化する・・・天才執事ジーヴスはいかにしてこれらの事件を解決するのか?かなり複雑なプロットなのですが、それを読みやすく(笑いも絶やさず)進行させるウッドハウスの語り口が冴え渡っています。小道具の使い方も巧みですね。


執事カフェなるものができたり、借金執事が主人公のマンガが人気を集める昨今ですが、ジーヴス・シリーズも多くの読者に親しまれるようになればうれしいですね。ぜひ実際にどれでも良いから手にとって読まれるのをお勧めします。どれから読んでも面白いし、続けて読むと他の作品とのつながりもわかってより楽しめることうけあいです。