ケニー・ヴァンス「ヴァンス32」

ヴァンス32(紙ジャケット仕様)

ヴァンス32(紙ジャケット仕様)

かつて「名盤探検隊」のシリーズで復刻されたときには買い逃してしまったアルバム。セレクト合戦関係の方々の間で評価が高いのを知り、あわてて探したのですが時既に遅し・・・・。ようやくこの紙ジャケ復刻で耳にすることができました。現在はプラノトーンズで活動しているケニー・ヴァンス1975年発表の1stソロ・アルバムです。


スティーリー・ダンを2曲カヴァーしていたり、スティーヴ・ガッドコーネル・デュプリーリチャード・ティー等が参加しているという情報から、都会的で洗練された、AOR的なサウンドを聴く前は想像していたのですが、よい意味で意表をつかれました。ヴァン・ダイク・パークスカリプソではなくてドゥーワップに夢中になっていたら、こんなアルバムをつくるかも?と思わせる、ノスタルジックでありながら様々なアイディアが溶かし込まれたサウンドが心地よい。全体的には穏やかな印象ですが、サウンド・コラージュ的な小品を最初と終盤に配したり、ビッグ・バンド・サウンドの小品を中盤に登場させたりと上手くメリハリを効かせています。


とはいえ、やはり胸にしみるのは曲の良さとケニーのヴォーカル、そしてコーラス・ワークです。ケニーの自作曲「レイニー・デイ・フレンド」やサム・クックのカヴァー「ワンダフル・ワールド」も優れていますが、やはり最後を飾る「ルッキング・フォー・アン・エコー」が素晴らしい。この曲にケニー・ヴァンスの魅力が集約されているとさえいいたくなります。古き良き時代を写し取ったセピア色の写真のような、甘いノスタルジックな曲ですが聴く人の心にはフルカラーの写真より鮮烈な感動を与えてくれるのです。