チューダー・ロッジ「チューダー・ロッジ」

チューダー・ロッジ

チューダー・ロッジ

もし「牧歌的な音楽とは何か?」と聞かれたら、まっさきにこのアルバムを挙げるでしょう。冒頭の「イット・オール・カム・バック・トゥ・ミー」で、まろやかなホルンの響きに続いて男性2人、女性1人によるコーラスが流れてきたとたんに、まるで春風吹き渡る草原に佇んでいるような気分になります。そしてこの感触はアルバムの最後まで失われることはありません。繊細なギターやたおやかなフルートの調べもまるで柔らかな春の日差しのように温かい。1971年にひっそりと生まれた至福のアルバムです。


チューダー・ロッジはスパイロ・ジャイラやメロウ・キャンドルと共に“ブリティッシュ・フォークの三美神”と称されることもあるグループです。グループ名こそ英国チューダー王朝からとられていますが、彼等が歌う曲は特に古楽やトラッド色が強いものではありません。そして紅一点のアン・スチュワートはグリニッジ・ヴィレッジ出身のアメリカ人。音楽的にはブリティッシュ・フォークというよりもソフト・ロックと呼ぶ方がふさわしいグループです。ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズなどが好きな方なら、さして違和感なく彼等の音楽に親しむことができるでしょう。だけど、この音楽を聴いて浮かんでくるのはやはり英国の風景なのです。そういった意味ではヘロンに近いといえるかもしれません。メンバー自身によるオリジナル曲も佳品揃いですが、最後に置かれたメリー・ホプキンも取り上げているラルフ・マクテル作「キュー・ガーデン」での3人のハーモニーが素晴らしくて、聴きかえす度に陶然となります。まさにマジカルなドリーミー・ポップ。