ブライアン・イーノ「オン・ランド」

オン・ランド(紙ジャケット仕様)

オン・ランド(紙ジャケット仕様)

アンビエント・シリーズの最後の作品である本作は先行する「ミュージック・フォー・エアポーツ」や「鏡面界」とはかなり趣を異にした作品。ピアノや電子音が大気の中を浮遊していたこれらの作品に対し、この「オン・ランド」には終始くぐもった重低音がうごめいています。その中からイーノがアフリカのガーナで録音してきたという、カエルや昆虫の鳴き声や水の音などの自然音がかすかに耳に入ってくる。聴くたびに、まるで瘴気を発する沼のほとりに深夜佇んでいるような気持ちにさせられるのです。


この低音の響きはこれまでのイーノの作品には無かったものと思われます。クレジットを見るとベースでビル・ラズウェルの名前があるので、演奏面では彼の貢献が高いといえるでしょう*1。しかし、それ以上に重要なのはエンジニアとして参加したダニエル・ラノワです。イーノとラノワといえばU2のプロデュースなどで絶妙な手腕を発揮したコンビ*2。そのコラボレーションの出発点がここにあります。このまさしく周囲を包み込む(アンビエント)ような柔らかくも深い低音はラノワの存在が無ければ実現しなかったのではないでしょうか。


そして、マイルス・デイヴィスデューク・エリントンの追悼曲として捧げた「ヒー・ラヴド・ヒム・マッドリー」*3が本作の具体的な音づくりにつながっている、というイーノの発言も注目すべきところです。既にこの時点(1982年)でマイルスにアンビエントの要素を見出していたイーノの慧眼にはただ唸るしかありません。後にビル・ラズウェルがマイルスのアンビエント・リミックス作を発表しますが、それは本作から15年以上も経ってからのことですから(結構好きな作品ですけどね)。

*1:マイケル・ブルックやジョン・ハッセルの参加も見落とせないところです。

*2:もちろん、ラノワ単独でもピーター・ガブリエルやスティング、ロビー・ロバートソン、ボブ・ディランなどの作品で世界的なプロデューサーの地位を確立しています

*3:アルバム「ゲット・アップ・ウィズ・イット」収録