プリファブ・スプラウト「アンドロメダ・ハイツ」

アンドロメダ・ハイツ

アンドロメダ・ハイツ

希代のロマンティストが生み出した最高にロマンティックなアルバム。大作「ヨルダン・ザ・カムバック」の発表後7年に及ぶ沈黙を破って1997年に発表されたこのアルバムは、スケールの大きさこそ前作に一歩譲りますが、メロディーの美しさでは過去最高ともいえる曲が集まった作品となりました。

君が僕のどこに惹かれるか僕にはわからない
それは恋の謎
だけど僕らがキスをかわすたびに
無知こそ無上の喜び それは恋の謎
(「ザ・ミステリー・オブ・ラヴ」)

人生は奇蹟 なぜだか教えよう
見上げる空にこの星ほど明るい星は
ひとつもない
(「ライフズ・ア・ミラクル」)

愛は星の並木道 僕はその輝きを見た
人びとの晴れやかな笑顔が
彼らが見つけた宝物に明るい光を投げかける
(「アヴェニュー・オブ・スターズ」)

※引用した歌詞はいずれも内田久美子氏の訳によるもの。

こうして歌詞だけ書き写してみると歯が浮きそうになりますが、曲の素晴らしさがこれらの言葉に説得力を与えていくさまは魔法といってもいいほど。長年彼等のサウンドを支えてきたプロデューサーのトーマス・ドルビーは今回から不参加になったけど、ここでは新たにブルー・ナイルの作品等を手がけたエンジニア、カラム・マルコムがパディ・マクアルーンの右腕となって気品のある音づくりに貢献しています。ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」を意識したとおぼしい、「ア・プリズナー・オブ・ザ・パスト」で聴かれるスペクター・サウンドが全体の中で浮いていないのはカラムによるところも大きいのではないでしょうか。


このアルバムがウエンディ・スミスが参加した最後のアルバムになったということも付け加えておかねばならないでしょう。彼女の清楚で甘酸っぱい声によるコーラスがプリファブ・スプラウトの音楽にもたらしたものはとても大きなものだっただけに残念。次作「ガンマン・アンド・アザー・ストーリーズ」もパディのアメリカン・ドリームの結晶ともいえる名作ですが、ウエンディの声が聴こえないことにふと気がついて寂しくなるのです。