バート・バカラック「アット・ディス・タイム」

There was a song
I remember
Said “What the world needs now...”
(「Please Explain」)

世界に向って優雅に怒りの拳を振りかざす、バート・バカラック実に28年振りのソロ・アルバム。ドクター・ドレーが数曲でドラム・ループを提供しているのがサウンド的には新機軸といえますが、ストリングス・サウンド、ホーン・アレンジ、造花のような女声コーラスの使い方は昔から変わらないバカラック謹製のサウンドです。
しかし、今作は自ら手がけたメッセージ色の強い歌詞がアルバム・カラーを支配していて、心地よさの波の中にずしりと重い感触を残していきます。特にエルヴィス・コステロがヴォーカルをとった曲は中に秘めたメッセージ、ドラマ性が他の曲よりもはっきりと浮き彫りになっているように感じられます。バカラック自身の声も、さすがに衰えは感じられるものの力がこもっていて胸うたれます。
このアルバムの制作動機には今の世界に対する怒りが中心をなしていますが、あくまで己の流儀で完成度の高いサウンドを生み出すことでそれを伝えようとしている点にバカラックのミュージシャンシップを感じました。齢70を超え、山や丘を登りつくし海や川を渡りつくしても、なお前向きに音楽を創り続ける姿に脱帽せざるをえません。