「オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽」〜黒澤明・成島東一郎・豊田四郎・成瀬巳喜男・今村昌平監督作品篇〜

オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽

オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽

黒澤明監督の映画音楽といえばまず名前が挙がるのが早坂文雄。「酔いどれ天使」に始まり、「羅生門」も「白痴」も「七人の侍」も全て早坂の音楽です。その早坂の晩年の作品である「ユーカラ」を聴いて「音楽を聴いて、あれほど涙が出て感動したことはなかった」と語ったのが武満でした。


早坂の死後黒澤映画の音楽を担当したのは佐藤勝。早坂の弟子にあたる作曲家で、「蜘蛛巣城」「用心棒」「椿三十郎」などの音楽を手がけています。その後ようやく「どですかでん」で音楽に武満が起用されるのです。これは決して唐突な起用ではないことがこうして流れを振り返ると分かってきますね。


どですかでん」の音楽はギターやハーモニカ、ファゴットなどが織り成す、なんともほのぼのとした雰囲気が特徴です。その中にも巧みな音色への配慮を怠らないのが武満ならではで、同時期の純音楽作品「トゥワード」でも使用しているバッシェの彫刻楽器をさりげなく忍ばせているのです。


次に武満が黒澤映画の音楽を担当したのは1985年「乱」。しかしここで黒澤と武満はティンパニの使用などを巡って意見が対立。「黒澤さん!僕の音楽を切っても貼っても結構です。お好きなように使って下さい。でもタイトルから僕の名前をけずってほしい。それだけです!僕はもう、やめる。帰ります!」といった感情的な発言も武満から出てきたらしい。そしてこれ以降武満が黒澤作品を手がけることはありませんでした。「夢」なんて武満が音楽をつけるのにぴったりな作品だったと思うのですが・・・。


黒澤作品に字数を取られましたが、その他の監督作品も質の高い音楽が収録されています。特に成島監督「青幻記―遠い日の母は美しく」や今村監督「黒い雨」での劇的で哀しみに満ちた音楽は強く心に残るものとなっています。