「オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽」〜勅使河原宏監督作品篇〜

オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽

オリジナル・サウンドトラックによる 武満徹 映画音楽

多彩な手法が用いられ、全体的に緊迫感のある音楽が並ぶ勅使河原監督作品篇。


「他人の顔」からはストリングスやバンドネオンによるワルツ・ナンバーを収録。お洒落になってもおかしくないメロディーなのに、どこか不穏な空気が底に流れています。「サマー・ソルジャー」もテーマ自体は甘い旋律なのにピアノを電子変調させたりして、それだけに終わらせません。クール・ジャズに近い感触があります。


このアルバムのカラーを象徴するといえる「おとし穴」の音楽は一柳慧高橋悠治武満徹による即興の要素が大きな割合を占めています。プリベアド・ピアノ2台とチェンバロにより、抽象的で断片的なモチーフが交錯するアヴァンギャルドな響き。ある意味時代を感じさせる音でもあります。


「白い朝」のテーマ曲では八木正夫によるピアノ・ソロが素晴らしい。けれどもこのアルバムの目玉は何といっても「砂の女」の音楽でしょう。ミュージック・コンクレートの創始者であるピエール・シェフールやペンデレツキが絶賛したことで知られています。終始神経質な音を鳴らし続けるストリングス、不気味に蠢く低音の響き、不意に差し挟まれる電子変調された楽器音など、全ての要素が実に効果的に用いられていて圧倒させられます。


ボクサーを取り上げた「ホゼ・トーレス」では弦楽オーケストラのみを用いており、はっきりと目立つ実験的な手法こそ用いていませんが、ここで聴かれるのも実に厳しい音楽。解説の秋山邦晴が述べているように、このまま弦楽オーケストラ用レパートリーとして取り上げてもいい完成度の高い作品です。個人的にもこのアルバムの中で最も好きな曲です。


なんとミュージック・コンクレートとヴィヴァルディの「ヴァイオリン交響曲」が共存しているのが「砂の女」に続く安部公房原作の「燃えつきた地図」の音楽。ヴィヴァルディにも大胆な編曲を施して刺激的に仕上げています。


最後は「利休」。日本の中世時代の作品ですが、笙や17弦筝といった邦楽の伝統楽器とヨーロッパ中世音楽に使用されたヴィオラ・ダ・ガンバを取り合わせ、ジョスカン・デ・プレやフランソワ・E・コロアの作品をアレンジするという、武満の編集術(アレンジ、ではなくあえてこう呼びたいです。松岡正剛的意味合いで)が冴え渡る逸品。静と動のコントラストが劇的な効果を生み出しています。