クラフトワーク「ミニマム-マキシマム」

ミニマム-マキシマム [DVD]

ミニマム-マキシマム [DVD]

タイトル、パッケージ、選曲、画像、音質どれをとっても非の打ち所のない逸品。2003年に発表された「ツール・ド・フランスサウンドトラック」を受けてスタートしたワールド・ツアーのライヴを丸ごと収録したものですが、クラフトワークの全てがここにある!と言いたい位の素晴らしい内容です。
ライヴとはいえ終始直立不動(よく見ると微妙にリズムに乗っている様子がわかって微笑ましい)のメンバー4人。その背後のスクリーンに曲に対応する動画が映し出されるといったスタイルです。再結成YMOのライヴも同様の趣向でしたが、YMOにはやっぱり観る方も彼等のプレイヤーとしての姿も期待しますよね。動画だけでは物足りない。細野がベースを弾くところ、幸宏がドラムを叩いてるところ、教授がキーボードを操るところを見たいわけですよ。その点クラフトワークは最初から観客も彼等が直立不動であることを受け入れている強みがありますね。なにせこのスタイルで30年以上やってるわけですから。だからこそファンはステージのちょっとした変化にも敏感に、かつ熱く反応する。知らない人が見たら「なんで照明が切り替わっただけでこんなに大騒ぎになるんだ」といぶかしげに感じるかもしれませんが・・・。


さて、この2枚組のDVDですが乱暴に分けると1枚目が「乗り物編」、2枚目が「コンピューター編」となるでしょう。
ツール・ド・フランス03」「アウトバーン」「ヨーロッパ特急」を中心とした1枚目では、彼等のレトロ・フューチャー的な側面がクローズ・アップされます。過去のツール・ド・フランスやヨーロッパ特急の映像がふんだんに使用されているのですが、これが見事なはまり具合。同じく古い時代のファッション・ショーの映像を用いた「モデル」も素晴らしいけれど、圧巻なのは「ヨーロッパ特急」。連結器のぶつかる衝撃音とパーカッション・サウンドがシンクロする部分に唸らされました。
2枚目の「コンピューター編」の見所は後半、日本語ヴァージョンが登場する「ポケット・カリキュレーター/電卓」。観客が「♪タシタリ ヒイタリ〜」と大合唱。ああ、この場にいたかった!そして91年作「ザ・ミックス」のジャケに登場した→Mix が一旦退場したメンバーに代わって優雅に踊る「ロボット」へと続いていく流れがとてもいい。そして再登場したメンバーはワイヤーフレームがデザインされた衣裳で出てくるのですから、自分達に求められているものがホント良くわかっていらっしゃると感心します。


サウンドクラフトワークならではの、シンプルでゆるぎない電子音の世界ですが、ビートをさりげなくブラッシュアップしているのがポイントでしょう。しっかり21世紀版クラフトワークサウンドとなっています。
いわゆる「テクノ・ポップ元年」1978年(YMOとDEVOがデビューした年)に発表された「人間解体」の時はまぎれもなくシーンの先頭を突っ走っていたクラフトワーク。しかし次作「コンピューターワールド」で早くもちょっと時代遅れになり(「BGM」や「テクノデリック」の後にこれを聴いてやけに牧歌的に感じたものです。好きですけど)、86年の「エレクトリック・カフェ」は当時やけに痛々しく聴こえました。「テクノ・ポップ」なんて曲名も今更感あふれていましたし。そしてその後91年に「ザ・ミックス」を出しただけで、長い沈黙に入った彼等。もうこのまま自然消滅かと思っていただけに、最近のこの活発さはうれしいです。ライヴの最後を飾るのは「ミュージック・ノン・ストップ」。「エレクトリック・カフェ」の収録曲です。まさか今になってこの曲に興奮させられるとは思いませんでした。