V.A「トロピカリズモ・アルヘンティーノ」

tropicalisimo argentino

“アルゼンチン音響派”という言葉は数年前から山本精一などによって言われていた言葉ですが、私が実際に耳にしたことがあるのはフアナ・モリーナとフェルナンド・カブサッキだけでした。
フアナ・モリーナのアルバムは国内盤も出ているので聴いている方も多いと思います。生楽器と電子音が繊細にブレンドされた優れたシンガー・ソングライターのアルバムとして楽しめました。
フェルナンド・カブサッキロバート・フリップに心酔しており、ギター・クラフトに参加して挙句の果てには師範にまでなったという経歴を持つ人。私が聴いたのは2003年の来日の折、勝井祐二山本精一鬼怒無月芳垣安洋岡部洋一、沼沢尚といった面々とのセッションを記録した「KIRIE Kabusacki Tokyo Session」。期待を裏切らない充実したアルバムでした。
フアナ・モリーナとフェルナンド・カブサッキ、どちらも楽しんで聴けたものの、じゃあ次は誰を聴けばよいのかというと、不勉強のためわからずじまい。結局そのままになっていたのが正直なところです。土佐有明の選曲・監修によるこのオムニバスはそんな怠惰なリスナーにとっては真にありがたい作品。今のアルゼンチンの音楽シーンの魅力を伝えてくれる、ヴァラエティに富んだアルバムとなっています。
タンゴのモチーフを取り入れた曲もあるのですが、ほとんどの曲がステレオタイプなアルゼンチンのイメージを心地よく覆してくれるもの。シタールを大々的に使用した曲もあるし、複雑なコーラスを聴かせる曲もある。更にはいびきと電子音が混ざり合った、さながらヤン富田ばりのアイデアが盛り込まれた曲もあるなど、どの曲も実験性とポップさのバランスが取れた私好みのものばかり。同時代の優れたポップ・ミュージックとして楽しむことができました。
アルバム・タイトルはもちろんブラジルのトロピカリスモから取られたもの。まさに新たなシーンの胎動を予感させるコンピレーションになっています。収録アーティストの解説も丁寧でありがたいですね。