アドリアーナ・カルカニョート「ポエム工場」

ポエム工場

ポエム工場

才媛という呼び名がふさわしいブラジルのシンガー・ソングライター、94年発表の3作目。今聴いても充分に刺激的な音楽です。リズムにはブラジルのパーカッションを多用しているのですが、クールな歌唱とソング・ライティングにはどちらかというとヨーロッパ的なセンスが感じられます。サンプリングの使い方や、時にシタールを用いたりするアレンジには知的な印象を受けるのですが、程よいポップさがあるのです。
ほぼ同時期に聴きはじめたマリーザ・モンチとつい比較してしまうのですが、マリーザの方がサンバやMPBの伝統を継承していこうという意志が強いように思えます。アドリアーナの方はといえば、このアルバムの終曲で、

私の音楽は 趣味の域を超えたいと願う
顔を持ちたくはないけど 文化になりたくもないけど
私の音楽は ノン・カテゴリーになりたいと願う
私の音楽は ただ 音楽でありたいと願う

私の音楽は その望みに遠慮がない

(「私の音楽」)

と歌っているのですね。落ち着いた中に潜むラディカルな意志の強さが彼女の音楽の最大の魅力であると思います。