桃山晴衣「弾き詠み草」

弾き詠み草

桃山晴衣は、伝統的な邦楽から出発しながらも流派を超えた自在な音楽を展開してきた人です。1960年に桃山流を創立し家元となりながらも、自分の求めているものが家元の枠をはみ出していることを悟り74年には家元を辞め、以後邦楽にとどまらない様々な「うた」を追求する、独自の活動を続けています。梁塵秘抄に曲をつけたアルバムもあり、これは滅多に伝統邦楽を聴かない私も、たまに棚から出すことのある作品です。


本作は79年に満を持して発表された1stで、このたびめでたく復刻されました。プロデュースは中村とうようが務めています。
アルバムの前半は桃山自身による三味線の弾き語り(6曲目は南米の民族楽器、シークとのデュオによるインスト)。彼女の歌はくさみがないのでごく自然に聴くことができて、とっつきづらくはありません。もっとも微妙なニュアンスを感じ取るには伝統音楽に対する私の耳の経験値が不足しているのですが・・・。


後半はなんと12分以上に及ぶ「虚空の舟唄」で占められています。語りを交えながら壮大なスケールで愛を歌った曲ですが、注目すべきは坂本龍一がシンセで参加していること。まだYMOの活動が始まったばかりの頃ですから、それだけでも貴重な記録といえるでしょう。今からでは考えられないことですが、中村とうようが「こいつしかいないと白羽の矢を立て」て起用したそうです。元々ステージでは三味線の弾き語りで披露されていた曲とのことですが、録音にあたって桃山は坂本に「チベットラマ教の音楽のようなサウンド」を要求。なんだかビートルズが「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」をレコーディングした時のジョン・レノンジョージ・マーティンのやりとりを連想させるエピソードです。そして坂本は、迫力はあるけれど決してうたに過剰に物語を付与することはない、非人情的なサウンドを造りだして桃山の要求に応えました。これは坂本龍一に関心がある方なら一聴の価値あり。ニューエイジっぽくないところがいいです。


なお、今作の復刻と同時にウード奏者ハムザ・エル・ディーンとの共演を含むアルバム「鬼の女の子守唄」も発売されています。



<参考> 桃山晴衣公式サイト「桃山晴衣のうた語り」
http://www009.upp.so-net.ne.jp/to_genkyo/index.htm