スティーヴィー・ワンダー「ア・タイム・トゥ・ラヴ」

タイム・トゥ・ラヴ

タイム・トゥ・ラヴ

強力な復活作。「スティーヴィー・ワンダーはやっぱり70年代だよねえ」と思っている人にこそぜひ聴いて欲しいアルバムです。レイ・チャールズ、シリータ・ライトといった彼にゆかりの深かった人物が亡くなったために発売が延期になったという知らせを耳にしたときは、正直あまり期待はしていなかったのですが・・・。
先行シングルとして発売されたパワフルなファンク・ナンバー「ソー・ホワット・ザ・ファス」に象徴されるように、アルバム全体に躍動感が漲っていて全15曲の長丁場を一気に聴かせます。この「ソー・ホワット・ザ・ファス」はギターにプリンス、コーラスにアン・ヴォーグが参加しているのですが、他にもアルバムにはアリシア・キースインディア・アリー等がゲストとしてクレジットされており、「ハウ・ウィル・アイ・ノウ」「ポジティヴィティ」では娘のアイシャ・モーリスとデュエットを披露しています。スティーヴィーくらいになれば大物ゲストがわんさか参加するなんて当然かもしれませんが、これらの豪華ゲストが単なる「華を添える」だけで終わっていないのが本作の大きな魅力。例えばゴスペル的な味わいのある「イフ・ユア・ラヴ・キャンノット・ビー・ムーヴド」には、フィーチュアされたキム・バレルの歌声が、曲を盛り上げるのに大きく貢献していて、スティーヴィーだけではここまでの高揚感を得ることはできなかったのではと思わせます。総じてファンク色が強い曲の出来が優れていて、だからこそ間に挟まれるバラードがより光って感じられます。
音楽的には新展開とよべるようなことは特にないので、「70年代の音をヴァージョン・アップしているだけじゃないのか」という見方もできるかもしれません。しかし、これはローリング・ストーンズの新作と共通していると思うのですが、自分の培ってきた音を時代に媚びることなく自信を持って送り出していることがアルバムの節々に感じることができて、それが音楽に生命感を与えているのではないでしょうか。伊達に「ワンダー」と名乗っちゃいないぜ!という言葉が聞こえてきそうです。