富樫雅彦/鈴木勲「陽光」

huraibou2005-08-30

日本を代表するフリー・ジャズパーカッショニスト富樫雅彦の作品にはデュオによるものが目立ちます。多くがピアニストとの共演で、その面々は佐藤允彦山下洋輔を初め、リッチー・バイラークやポール・ブレイにも及びますが、そういった中にあって、この作品は珍しくベーシストの鈴木勲とのデュオになっています。
ピアノとのデュオでは互いの間を測りながら繰り広げられる、緊張感あるインタープレイが魅力ですが、それとは異なりこの作品ではどこか親しみやすい作品になっている点でも異彩を放っているといってよいでしょう。これはベースだけではなく、ピアノにマリンバ、ソリーナまで操る鈴木の持ち味によるところが大きいようです。
冒頭のタイトル曲「陽光」では初めにキーボードによる朝焼けを思わせるハーモニーがしばらく響いた後、サンバのリズムを富樫が叩き出します。キャリアの初期に在籍していた渡辺貞夫のグループでボサノヴァなどは体験済みだったとはいえ、このころ(1979年)の富樫といえば、フリー・インプロヴィゼーションばりばりだった時期なのでかなり意表をつかれました。
続く「東洋の黄色いたまご」では富樫得意のオスティナートを基調とした即興、鈴木曲「ロンリー・ブルー」では繊細な富樫のブラシ・ワークが堪能できます。この富樫の演奏に対して、鈴木は調性感のあるピアノやキーボードを控えめにかぶせてくるので、全体としてポップな感じすら受けるのがこのアルバムの面白いところです。鈴木についてはサウンドのカラーリングの面のみを述べてきましたが、ベーシストとしての鈴木も「シルヴァリー・フラッシュ」でその魅力を存分に味わうことができますよ。
かつて1979年度ジャズ・ディスク大賞で「日本ジャズ賞」と「最優秀録音賞」(国内録音賞)を受賞しておきながら、最近になってようやくCD化されたこの作品ですが、2人の音楽世界への最初の1枚としてふさわしい、わかりやすさと魅力を持っている作品だと思います。