宮崎貴士「アステア」

huraibou2005-08-31

1曲目の「約束」。ピアノのイントロに導かれ、宮崎のやや線の細いけど優しいヴォーカルが聴こえてきたときに真っ先に連想したのが初期のニルソンでした。アルバムを最後まで聴きとおしてもその印象は変わりません。どこかノスタルジックな、けれども今までにはなかった温かいサウンド、人懐っこいメロディー、全体に漂うユーモアとペーソス・・・新川忠を初めて聴いたときもニルソンらしさを感じたけど、これはそれ以上にニルソン度が高いですね。いわば「宅録ニルソン」といった趣。気に入らずにはいられません。中でも「正しい数の数え方」にはやられました。とぼけた歌詞を甘く、けれどもどこか物悲しいメロディーで包み込んだこの曲は、私には「One」のアンサー・ソングのように響いてきたのです。終わり近くでかすかに聞こえてくるフィンガー・スナップがたまりません。

「アステアのダンスって、ある意味、ビートルズ以上の大義だし、この世でいちばん美しい人間の仕種のひとつ。そういうスタンダードで普遍的なアルバムにしたい」との思いでつくられた本作は、プロデューサーに岸野雄一、演奏ゲストにベーシスト菊地雅晃、シンガーソングライターの田中亜矢などを迎えて制作された2ndアルバム。1stはジム・オルークが絶賛したそうです。なるほど、オルークが好きなポール・マッカートニーの1stに通じるようなところもありますからね。一見穏やかで、こぢんまりとしているようでも、耳を澄ますと底に流れるエモーションを感じることができる音楽です。タイトルに惹かれて試聴して即買いを決定したのですが、これまで彼のことは全く知らなかったことが悔やまれます。


本作についてのインタビュー

http://www.bounce.com/interview/article.php/2108/