ダニエル・ラノワ「ベラドンナ」

Belladonna (Dig)

Belladonna (Dig)

アンビエント・ミュージックの礎を担ったブライアン・イーノとダニエル・ラノワがそれぞれ新作のソロ・アルバムをリリースしました。久しぶりにヴォーカルをとったイーノのアルバムはかなりあちこちで話題になっていて、確かにとてもいいアルバムだと思うのですが、イーノが歌ったことよりもラノワが歌わなかったことの方が私にとっては大事件。全編インストゥルメンタルのこの新作は、稀代の音響造型士ダニエル・ラノワの世界にたっぷりとひたれる作品になっております。
自ら歌う代わりにスティール・ギターを多用しているのが今回の大きな特徴。サポート陣はベースのダリル・ジョンソン、ドラムのブライアン・ブレイドを中心に、アーロン・エンブリー、マルコム・バーンといった面々。そしてブラッド・メルドーの参加が目を引きます。とはいえ彼等は特に大きくフィーチャーされることはなく、音響空間を漂いながら、ときに浮かび上がりときに消えていくのです。個々の音はクリアなのに、全体的には奥深いアンビエンスな空間を形成しているのがラノワならではの技の冴え。メキシコ風味の4曲目なんてまるで幻想空間をさすらうキャレキシコか、はたまた70年代のライ・クーダー幽体離脱したのかといった仕上がり。押し付けがましいところが一切ないのに限りなくイマジネーションを膨らませることができるのが素晴らしい。空間を静かに侵蝕していく音楽です。