半野喜弘「Angelus」(asin:B000803FDG)

huraibou2005-05-31

今月は、邦楽で優れたエレクトロニカの作品が2つ発売されました。ひとつはレイ・ハラカミ「Lust」、そしてもうひとつが今日取り上げた半野喜弘の「Angelus」です。
近年のエレクトロニカがどんどん生楽器を導入しているように、このアルバムもストリングスやホーンといった生音がふんだんに取り入れられているのですが、音色に対する鋭敏な感覚、音を重ね合わせる手つきの繊細さでこの作品は抜きん出ています。実際に交流もあることからよく坂本龍一の後継者とも言われることもある半野ですが、個人的には音づくりに関していえば半野は既に坂本を超えていると思いますね。電子音、グリッチ・ノイズ、生音が丹念に織りあわされた音響は匠と呼ぶにふさわしい出来栄えです。
前作(別名義作を除く)「Lido」でもジョアン・ラ・バーバラ(!)等をヴォーカルに起用していたのですが、今作は国内のヴォーカリストを大胆に起用。その顔ぶれが坂本美雨ハナレグミ原田郁子(クラムボン)、細野晴臣中納良恵(EGO-WRAPPIN’)、AH、湯川潮音という豪華なもの。私の好きな人ばかり選ばれているので、それだけでも点が甘くなるのですが、どの曲も完成度は高く、いずれ劣らぬ個性を持つヴォーカリストの世界が、半野の紡ぎだすサウンド・スケープによってまとめられ、アルバム全体としてもヴァラエティ豊かなものでありながら、トータルなひとつの作品として成立しているのは圧巻です。
曲目を見ると、どうしても細野がヴォーカルを取る「サヨナラ、はらいそ」にまず目が行きます。どうしたっていろいろ考えずにはいられませんよね、こんなタイトルの曲を歌われたら。半野とデュエットしている渋い1曲。もうひとりの男性ヴォーカル、ハナレグミをフィーチュアした「夢の匂い」も聴き応えのある曲です。近年のソロはアコースティック路線でしたが、電子音との相性も悪くないんじゃないかと思わせるほど、声とサウンドがはまっているんですねえ。女性陣では、2曲に参加した原田郁子もさることながら、中納良恵が歌う「ナイフ」が佳曲。個人的には、ハナレグミと同様にアコースティック・サウンドの印象が強かった湯川潮音参加曲「スクラップPart1&2」が印象に残りました。とても贅沢で、とても心地よい「歌もの」アルバム。