アンサンブル・ノマド定期演奏会#26『20世紀の室内楽〜マイナー系音楽に誘惑されて』at東京オペラシティリサイタルホール

仕事に、音楽に、飲酒に連日多忙な日々を送っている旧友chimeさんが上京。演奏会に同行するはずの相手の都合がつかなくなったとのことで、急遽私に声がかかりました。まずは同じく旧友のKさん、Aさんを交え和やかにまったりと昼食。その後おもむろに会場へ向かいました。


今回のプログラム、確かに「マイナー系」ではありますが、決して難解な曲がずらりと並んでいるわけではありません。ジョン・ゾーンスティーヴ・ライヒといったポップ・フィールドのリスナーにも馴染みのある作曲家の曲が取り上げられているのです。今回私が楽しみにしていたのも、ジョン・ゾーンコブラ」。「コブラ」については過去の日記(ゲームの規則 - One Way To The Heaven)でも取り上げていますが、実演を見るのは今回が初めて。どんな演奏になるのか全く予想がつかないのでワクワクしていました。


さて、1曲目は“オランダの武満徹”とも言われているらしい、ルイ・アンドルーセン「ディスコ」(1982)。ピアノとヴァイオリンのデュオです。タイトルが意味有りげですが、これは忘れた方が混乱しないで済みます。冒頭こそやや細かい動きがありましたが、基本的にはピアノが単音を間隔をおいて強打。ヴァイオリンは残響をフォローしていくという流れです。ひとつの音が生起するところから響きの余韻に至るまで持続して傾聴することをうながす、まことに現代音楽「らしい」曲。この人確かECMから作品がいくつか出ていたはず。これ1曲だけでは個性がつかめないので、機会があればいろいろ聴いてみたいと思います。


続いて中川統男による「01」(2005)。フルート、バス・クラリネット、ヴァイオリン、ギター、パーカッションに加えて作曲者本人のエレクトロニクスとヴォイスという編成。
楽器の音をサンプリングして加工し、演奏者の反対側のスピーカーから音を出したり、ずらしてみたり、そこに声明とホーミーとヴォイス・パーカッションが混ざったようなパフォーマンスを加えて音像を構築していく試み、いわば生でリミックスをやっているような音楽なのですが、うーん、個人的には物足りない出来栄えでした。これならリー・ペリーやホルガー・シューカイがかつてやっていたことの方が過激でかつポップでしょう。楽器の編成を生かしきれなかったようにも思えました。


前半最後はマイケル・トーク「イエロー・ペイジ」(1985/95)。これは明確な旋律を持つモチーフを核にした曲なのでわかりやすかったですね。


休憩をはさんで待望の「コブラ」です。初めて見た生「コブラ」は予想以上に楽しいものでした。プロンプターの指示に反応しつつ、演奏者自らも積極的に挙手をして、指名されたらサインを送る。ときどき“ゲリラ”が登場(“ゲリラ”役の人はハチマキをして舞台中央でどんどん指揮をとっていました。その間、本来のプロンプターは軍帽をかぶっているという演出が良かった)して場をかき乱すという、混乱の可能性も含んだルールにより自在に演奏の表情が変化していきます。奇声を発したり、おもちゃの楽器を鳴らしたり、有名曲の一部を引用したりといったサービス精神も旺盛で、お客様にもこの「ゲーム」(そう、「コブラ」はゲーム・セオリー・ミュージックといわれているシリーズのひとつなのです)を楽しんでもらおうという気持ちが伝わってきました。ほとんど即興で進行していくので、思わぬ展開に演奏者同士が思わず笑みをこぼす・・・といった普通のクラシック系のコンサートでは考えにくい光景も見られ、終始こちらも笑みを絶やさず聴くことができました。惜しむらくはパンフの解説がシンプルすぎたこと。せっかくここまでエンターテイメント精神を発揮してくれたのだから、演奏前に口頭で大まかなルールを説明しておいた方が、初めてこの曲に接する人ももっと楽しめたと思います。


最後はスティーヴ・ライヒ「ヴァーモント・カウンターポイント」(1982)。ライヒらしく、フルートによる旋律が繰り返され、重ねあわされてモアレ効果により響きが重層的かつ多彩に広がっていく過程を楽しむ曲なのですが、今日の演奏で特筆すべきは、通常テープ録音とひとりのフルート奏者で演奏されるこの曲を全て生でやったこと。ステージ上に11人ものフルート奏者が並ぶ図はなかなか壮観でした。高木綾子も参加していたのですが、彼女はやっぱり華がありますね〜。もともとライヒの曲は難しいと聞いていますが、生で演奏するとなるとかなりの難曲になると思われるところを、破綻なく最後まで進行したのは流石ですね。これは滅多に見られないものを見せてもらって感謝です。


さすがにアンコール・ナンバーはなかったのですが、充分楽しませてもらったコンサートでした。「コブラ」は今度別の編成でも聴いてみたいですね。