マイルス・デイヴィス「マイルス・エレクトリック」

マイルス・エレクトリック 〜 パフォーマンス・アット・ザ・アイル・オブ・ワイト[DVD]

マイルス・エレクトリック 〜 パフォーマンス・アット・ザ・アイル・オブ・ワイト[DVD]

これまで断片的な映像しか紹介されなかった、1970年、ワイト島ミュージック・フェスティヴァルでの約38分間に渡るステージが完全収録された待望のDVDです。「ビッチェズ・ブリュー」によってジャズ界のみならずロック界にも衝撃を与えた時代のマイルスがたっぷり見られます。いきなりライヴになるのではなくて、カルロス・サンタナハービー・ハンコックといったマイルスゆかりの人やジョニ・ミッチェルなどの談話、当時のメンバー達による回想によってマイルスがいかに新しい試みの挑んで行ったのか、どのように指示を出していたのかを浮き彫りにしていくのですが、その合間に挟まれる映像も貴重なもので、特に73年日本公演の映像はフルで見たい!
後半はいよいよステージの映像へ。マイルスの前がタイニー・ティムだったというのもある意味衝撃的ですが(やる音楽の落差が激しすぎる・・・)、それはともかくとして演奏は終始緊張感漲るものでした。このときのラインアップはキース・ジャレット(el org)、チック・コリア(ep)、ジャック・ディジョネット(ds)、ゲイリー・バーツ(ss)、デイヴ・ホランド(eb)、アイアート・モレイラperc)。ロック側からも注目を集めていた時期に、エレキ・ギター無しでツイン・キーボードという大胆な布陣(「ライヴ・イーヴィル」失礼、「ライヴ・アットフィルモア」でした、でもこれに近い布陣の演奏が聴けますね)。演奏が始まったとたんに頭をぐるぐる回してトランスしちゃうキース・ジャレットと、黙々とモジュレーターで音を歪ませていくチックが好対照。アイアートの小物使いの妙技がたくさん見られるのはパーカッション・ファンにとってはうれしいところではないでしょうか。ジャック・ディジョネットデイヴ・ホランドのリズム隊もすごい。以前出た「1969マイルス」では頑固にウッド・ベースを弾いていたホランドも、ここではエレキ・ベースになっています。ゲイリー・バーツも決して悪くはないと思いますが、ちょっとこれだけの面子に囲まれちゃうと弱いかなあ。ショーターならどうだったろうと、つい思わずにはいられません。すまん、ゲイリー。
そして何といっても主役のマイルスのカッコ良さと求心力のすごさが最大のポイントで、我が家のTVの小さな画面を通してもはっきり伝わってくるのです。精悍な表情と立ち居振る舞いのいちいちが魅力的で、最後自分が吹き終わったらエンディングをメンバーに任せ、さっさと鞄を背にしてバック・ステージへ。大観衆の声援に応えるときも、ちょっと出てきて控えめに投げキッス。これが本当にクールなんだなあ。