ジュディ・シル「ハート・フード」(asin:B000042O6A)

ハートフード

73年発表の2nd。ジュディ・シルが残した2枚のアルバムはニック・ドレイクのような美しさと痛みを湛えていて、胸の奥に焼きついて忘れることができない作品になっています。不幸な生い立ち、離婚や麻薬中毒など、苦難に満ちた生活の中、作詞・作曲のみならず、サウンド・プロデュースも自らこなして(このアルバムの裏ジャケは指揮を取る彼女の写真になっている)創りあげられたジュディ・シルの音楽は、穏やかな歌声と温かくドリーミーなサウンドの中に、崇高な感情と救いを求める思いが込められており、一見ラブ・ソングのようなタイトルを持つ名曲、「キス」ですら、

一度だけ 澄み切った声の聖歌隊
私が眠っている時に現われた
私の名前を呼んでいたの
近くに降りてくると
「死は終わった」と告げたわ
私たちが何処かで
一体となって呼吸するまで
新しい歌が流れてきた
(今も あの囁きが聞こえる)

と歌われているのです。
そして彼女の祈りの集大成というべき終曲「ドナー」では、ミサの一節「キリエ・エレイゾン(主よ あわれみたまえ)」が美しいハーモニーを伴って何度も繰り返されます。ただし、この曲は最後の最後になって雲間から光が差したかのように、明るい響きで締めくくられるのですが・・・。結局大きな成功を手にすることなく、33歳の若さでヘロインの過剰摂取(背骨を骨折し、その痛みに耐え切れなかったためと聞きます)により生涯を閉じたジュディ・シル。しかし彼女の残した音楽はこれからも聴きつがれ、多くの人の心に届いていくでしょう。