ブルース・ハック「エレクトロニック・レコード・フォー・チルドレン」(ASIN:B0000DJWNZ)

ブルース・ハック

「私たちのメッセージは、前衛的なエレクトロニクスによるサウンドトラックを使用した、世界共通、前代未聞の心をかき乱す音楽です」(エスター・ネルソン)


年の初めからものすごいものが再発されました。ディメンション5レコードの再発です。しかも一気に5タイトル。モンド・ブームはとっくに一段落したと思っていたのですが、どっこいまだまだこんな物が出てくるんですね〜。


ディメンション5は1963年に、ブルース・ハックとエスター・ネルソンによって設立されたインディー・レーベルです。エスターはニューヨークで子供のためのダンス教室をやっていたのですが、そこに仕事を探していたブルース・ハックがピアノの伴奏者として雇われました。まもなくハックは教室にピアノ以外に自作の楽器などいろんな楽器を持ち込んで演奏したのですが、これが子供たちに大うけ。教室だけではなく家でも楽しめるものをつくって欲しいという、ある生徒の母親の質問がきっかけとなって、エスターとハックはレーベルを立ち上げることを決心したのです。


今回取り上げたのは、ディメンション5の作品中最も人気の高い一枚として知られる作品です。発表は1969年。サイケデリック・ムーヴメントをくぐり抜け、モーグシンセサイザーという新兵器を手にしたハックのアイデアが爆発しまくった音楽になっております・・・がよく聴くと、あららメロディは結構ポップじゃないですか。カントリーだったりスラブ民謡ぽかったりするんですよ。しかしモノラルで分離の良くないサウンドに、シンセ音やコラージュが鳴り響くのは、かなりビザールであります。エコーは「風呂場エコー」ですしね。手作り感がありすぎるジャケットもモンドなイメージをおおいに高めております。


冒頭、電子音の渦の中から電気変調されたバンジョーの調べが聴こえてくるところからして、もうなんかヤバイです。その後もロシアっぽいメロディーにムシ声がかぶさったり、わけわからない子供たちのコーラスが出てきたり、妙に不気味な曲があったりと前半は、これが本当に子供の情操教育目的でつくられたとは信じられない展開。後半になってようやくポップな曲やノスタルジックなメロディーが出てきて安心させますが、やはりサウンド・コラージュも時々飛び出してくるのがミソです。それにしても奇想天外。エスターが冒頭に引用した科白をはくのもうなづけます。しかし、私たちはこれに良く似た感触を持ったアルバムを知っています。ヴァン・ダイク・パークス「ソング・サイクル」!ライナーノートで小柳帝も指摘していることなのですが、自分が夢想した音楽を徹底的に具現化しているという点で両者は共通するところが感じられるのです。ハックの方はあまりお金かかってなさそうですが(笑)。もうひとつ似ているのを挙げると、細野晴臣の「フィルハーモニー」。無邪気すぎてブキミな曲が多いという点ではビーチ・ボーイズ「スマイリー・スマイル」にも似てますね。この再発シリーズはキング・レコードからの思いがけないお年玉。お子様がいらっしゃる方は、ぜひ実際に聞かせてみてください(笑)。