倉橋由美子「老人のための残酷童話」(ISBN:4062117541 )

残酷童話


「大人のための残酷童話」の方は確か新潮社の「波」に連載されていて、連載当時から単行本になるのが待ち遠しかったのだけれど、単行本になったら蛇足としかいいようがない「教訓」なるものが各編の最後に加わって、イソップ童話のパロディとはいえずいぶん興ざめしたのを思い出します。この人のやらずもがなの俗物批判は悪い癖で、一時期の吉田健一の小説、文体を手本にしたとおぼしい作品群もそこの部分がどうにも食い合わせが悪くて浮いていたものでした。

今回はうれしいことに余計な教訓はついてません。彼女が親しんできた古今東西の書物から材をとってしたてられた短い怪異譚が、大げさな誇張や派手なレトリックなどを使わず、堅実な文章で綴られています。どの話もその作品世界のロジックに則って話がきびきびと進行していくので、「残酷」という言葉に過剰な期待をしたり、あっと驚く結末などを期待している人は肩透かしをくったような気分になるかもしれません。少し変わった物語を地に足のついた文章で読みたいと思っている人にとっては格好の読み物です。職人によって焼かれた添加物のない、塩せんべいを食べているがごとき味わい。個人的に気に入ったのは「姥捨山異聞」、「犬の哲学者」、「老いらくの恋」。