フェアポート・コンヴェンション「アンハーフブリッキング」(ASIN:B0000CD82P)

huraibou2003-11-28

フェアポート・コンヴェンションが紙ジャケになるなんて感慨深いものがありますね。このアルバムは彼等の長い歴史の中でも特に重要な位置にある作品。ビートルズでいえば「ラバー・ソウル」にあたるものといえるのではないでしょうか。アメリカ西海岸のロックやボブ・ディランを追いかけていた彼等が、ザ・バンドの登場に衝撃を受け、表面的なスタイルの模倣から、その方法自体を取り入れて自分達の伝統に目を向け、脱皮しようとしている過渡期の瞬間を捉えた作品なのです。これまでの面影はディラン・ナンバーを3曲もカヴァーしているところに窺えます。そして新たな一歩は、11分にも及ぶ長尺ナンバー「船乗りの生涯」で踏み出されました。うねっていくリズム・セクション、ギターとヴァイオリンのアンサンブルもさることながら、やはり最大の魅力はサンディ・デニーの錆びた声でしょう。温かさと寂しさが同居する彼女のハスキー・ヴォイスがこのバンドに与えたものは計り知れないものがあります。ヴォーカルだけではなく、ソングライターとしても優れていた彼女の魅力は6曲目の「時の流れを誰が知る」で堪能できます。歴史的価値云々は横においても、このアルバムはこれ一曲で充分お金を払う価値があります。抑えた演奏とヴォーカルがこの曲をより味わい深いものにして、かえって忘れがたいものにしています。先にも述べたように、アルバム全体は過渡期の産物といえるもので、リチャード・トンプソンが独自のギター・スタイルを確立するのはもう少し先のことだし、私の好きなドラマー、デイヴ・マタックスもまだ加入していません(ただし、ここでのマーティン・ランブルのドラミングも派手さはありませんが優れた演奏だと思います。彼はこのアルバムがほぼ完成していた時、メンバーを襲った交通事故によって亡くなりました)。それでも新しく進むべき道を見つけた喜びが穏やかに満ちていて、聴く者を惹きつけてやまない音楽になっています。一見地味すぎると思えるジャケットも、彼等の魅力を知った後ではこれ以外にないと思えてくるのです。