SKETCH SHOW「LOOPHOLE」(ASIN:B0000CEB8V)

ループホール

最初に聴いたときはずいぶん地味だと思ったけれど、聴き返す度に心地よさがじわじわと沁みてきます。待望の2ndは、ミニ・アルバム「tronika」で示された方向性をぐっと煮詰めた、統一感のあるアルバムになりました。北欧系エレクトロニカへの共感はユニット結成時からことあるごとにメンバー2人の口から語られてきましたが、細野がこんなに北の音楽への影響を表明したのは、これまでにはあまりなかったように思えます。北欧系に限らず、ここ数年生み出されてきたフォークトロニカ、エレクトロニカと呼ばれる音楽はアコースティックと電子音をブレンドした繊細な感触のものが多く、テクノというよりはネオアコの発展形というのがふさわしいものです。その繊細な感覚を細野は「邪心がない音楽」と高く評価していました。誰よりもポップ・ミュージックを愛する一方で、そこに多く見られがちな過剰なエゴの表出には嫌悪感を持っていた細野には、ひとつの理想に近い音楽に思えたのではないでしょうか。まあ、これは私の勝手な推測にすぎませんが。そして幸宏。彼の持つ節度ある甘さの感覚もまたこのタイプの音楽には相性が高いように思われます。そしてその良さを細野が上手く引き出しているように感じられますね。そして彼等が他のエレクトロニカと一線を画するところはやはりリズム。極端にトリッキーなビートはないのですが、多彩にシンコペーションするビートが音楽に立体感を与えて、単調になるのを防いでいるのですね。

この作品は音楽自体のクオリティもさることながら、録音が非常に良いです。YMO「BGM」を思わせる太い低音、アコースティック楽器の音はくっきりと響き、プチプチするノイズ成分も粒立ちが良くまろやか、シンセの音色も含めてトータルとして実に練りこまれた音像には脱帽するしかありません。前作が発表されてすぐ録音が始まったという割りにはずいぶん時間がかかったという印象だったのですが、かなり音色の作り込みに時間をとったんじゃないのかな。このタイプのサウンドの流行が過ぎても長く聴ける音になっていると思います。最初に書いたように、一聴してすぐ声高に傑作だ!と叫びたくなるような音楽ではないのですが、ひとつひとつのテクスチュアが聴き取れてくるにつれ魅力が増してきます。ただ惜しむらくはユーモアの感覚が後退したこと。まあ、これは今後の2人のソロに期待することにしましょう。