高橋幸宏「Fate of Gold」(ASIN:B000064UEA)

fate of gold


95年作。このころの幸宏は知る限りではあまり評判がよくありません。確かに私も幸宏の絶頂期はと尋ねられたら、「音楽殺人」から「薔薇色の明日」までと答えます。「Once a fool・・・」や「Ego」だってなかなかの作品です。以降の作品には彼の持つ美質のひとつだった軽妙さ、洒脱さが薄れているのは否めません。しかし、年に一枚のペースで平均点以上の作品を出し続けるのは、やはり生半可な力量のミュージシャンには困難なことで、同時期、アンビエントの海に浸っていた細野晴臣(それはそれで悪くなかったのですが)、NYへ渡ってからは別人のように気の抜けた作品を連発している坂本龍一と比べると、もうちょっとこの時期の幸宏を評価しなくては、と個人的に思うのです。それでこの「Fate of Gold」。作詞陣に本人以外に森雪之丞鈴木慶一高野寛竹中直人が各1曲。バカラックの「ルック・オブ・ラヴ」をカヴァー。と書くと、なんだ、いつもと変わらないじゃんといわれそう。しかしこの作品が他と異なるのは、作・編曲にKYONがかなり協力していること。これが当時ややもすると失われがちだったダイナミズムを生み出すのに大きな貢献を果たしています。もちろん、極端にアグレッシヴになったわけではなく、演奏に生気が増したという感触なのですが、全体を一気に聴きとおさせるには充分。もうひとつはギタリストの使い分けで、大村憲司鈴木茂佐橋佳幸、徳武弘文といった層々たるメンバーをさりげなく配置してるのは見事です。ヴォーカルはもうYMO時代の「フー・マンチュー唱法」からは完全に脱却した味わいのあるものになっていますね。どこかが突出しているわけではなく、全体のバランス良く整った仕上がりは、優れたスーツのよう。ベストはほのかにトロピカルな鈴木慶一作詞の「海辺の荘」。ムーンライダーズの「海の家」よりずっといいですねえ。ラストのインストゥルメンタル・ナンバーは映画のエンディング・ロールのようでいい感じに幕を閉じます。こういったさりげなく手がかかっている、いい作品が手元にあるとなんとなく安心しますね。