富樫雅彦「スピリチュアル・ネイチャー」(ASIN:B0000CD7YS)

ネイチャー


昨日の環太平洋モンゴロイドユニットの演奏を聴いて、その東洋的な感覚のアンサンブルになんとはなしに連想したのがこの作品でした。75年に発表された日本のジャズを代表する名盤です。不幸な事故による闘病生活の後、車椅子のパーカショニストとしてカムバックした富樫雅彦は、この当時旺盛な創作力で矢継ぎ早に作品を発表していました。デュオを中心とした「ソング・フォー・マイセルフ」、多重録音による完全ソロの傑作「リングス」など様々なスタイルを試みていたのですが、この「スピリチュアル・ネイチャー」は厚生年金会館でのライヴ録音を基にした、10人編成による組曲形式の作品なのです。参加メンバーには渡辺貞夫佐藤允彦、翠川敬基といった層々たる顔ぶれが名を連ねているのですが、特筆すべきは管楽器がフルートにサックスと全て木管楽器であることと、パーカッションに富樫本人に加えて3人の奏者を配したこと。これによって独自の透明感ある響きを生み出し、作品のテーマである「自然」を見事に表現しました。タイトル曲はその後もしばしば取り上げられた、ペンタトニックの素朴なメロディーが耳に残る名曲で、ここでのナベサダのソロやアグレッシヴな翠川によるチェロのアルコ・ソロも聴きものですが、個人的に最も好きなのは2曲目「MOVING」での佐藤允彦のピアノ・ソロ。ドビュッシーフリー・ジャズ的解釈といえそうな奔放かつ精妙な美しさに満ちた素晴らしいソロです。これだけでも充分にこの作品を聴く価値があります。
何度も再発を重ねているこの作品ですが、難をいえばいくつかの曲がLPの収録時間の関係なのか、フェード・アウトで終わることが残念です。いつか完全版が出ないでしょうか。