スタイリスティックス「イン・ファッション」

in fashion

78年作。うわ、ダサイジャケット。お洒落感を演出する小道具がことごとく裏目に出ています。この感じ、見覚えがあるなあと思っていたら、ムーンライダーズヌーヴェル・ヴァーグ」でした。こちらもメンバー公認のダサジャケです。ほぼ同時期に発表されたジャンルが異なる2作品ですが、このころこんなデザイン感覚が流行していたのでしょうか。しかし「ヌーヴェル・バーグ」がメロディアスな佳曲を多く収録した好アルバムであるように、今回とりあげた「イン・ファッション」も甘いメロディーの楽曲がそろった、なかなかの作品なのです。
スタイリスティックスの全盛時といえばやはり70年代初期。トム・ベルの手によって「ストップ・ルック・リッスン」、プリンスもカヴァーした「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」などの名バラードを連発していた頃ではないでしょうか。ドラマティックかつスリリングなサウンドラッセル・トンプキンスJrのつややかなファルセットが聴く者をうっとりと酔わせてしまいます。けれども、70年代中盤以降はその勢いも失速。ディスコ・ブームの台頭もあって低迷が続いていました。そんな彼等が新規一転、マーキュリー・レーベルへ移籍して出した第一弾がこの「イン・ファッション」です。そしてこのアルバムには、かつてのトム・ベルに勝るとも劣らないプロデューサーが参加することになりました。ロイヤレッツ等を手がけたことで有名な名匠、テディ・ランダッツォです。ディスコ・ビートの影響をわずかに止め、サックス、ストリングスをフィーチャーした、テディ得意のスタイルはスタイリスティックスにぴったり。「ベッチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」にそっくりな曲や、バカラックの「メイク・イット・イージー・オブ・ユアセルフ」をちょっとだけ連想させるイントロの曲もありますが、3曲目「ユア・ザ・ベスト・シング・イン・マイ・ライフ」は掛値なしの名曲。スリリングなイントロ、中盤の転調、後半のファルセットでのスキャットと文句のつけようがありません。アルバムは残念ながら当時はあまり注目を集めずに終わったそうですが、この曲を残しただけでも、両者のコラボレーションには大いに成果があったと思えるのです。